審査員総評

金子 美智子 氏(写真家)

 前回までの「祭り」「食」両部門を統合して「暮らし」部門が新設され、東北人の暮らしぶりをさまざまな角度から捉えた作品がたくさん集まった。特設の「鉄道」部門では、映画の一場面を思わせる見応えのある作品もあった。
 「震災」部門では、見る人に希望を感じさせるような作品が増えてきた。被災した事実を受け入れた上で、それでも前向きに生きようという力強さが伝わってきた。一方、福島第1原発事故の傷跡を感じさせる作品もあり、早期の復興を願わずにはいられない。
 「風景」部門は、宮城県以外の作品が相対的に少ないのが残念。東北にはまだまだ魅力ある風景が眠っている。各地にもっと足を運び、撮影に挑んでほしい。
 例年、撮影者は年配の人が多い。加えて最近は被写体が高齢者という作品も増えた。高齢化や人口減少など、東北が抱える暗い課題を吹き飛ばすような、地域で元気に活躍するお年寄りの姿に勇気づけられる。


審査員作品「緑爽」(秋田県・にかほ市)
わたしが鳥海山と初めて会ってから早10年以上の月日が経つ。
新潟から秋田に向かう海岸線を走っていた時、「鳥海blueライン」の看板を見つけて初めて鉾立まで行った。車を走らせたブルーラインからは雲が立ち込め、まったく山は見えない。鉾立駐車場に着いても鳥海山が見えないため帰ろうとしたその時、 一瞬雲が晴れ真っ白に雪をかぶった鳥海山が素晴らしい姿を見せてくれた。その日から一週間、私は鳥海山で写真を撮り続けた。
その時の感動が忘れられず、鳥海山に魅せられた私はその後何回も足を運んでいる。
鳥海山の撮影の中でこの写真は大好きな1枚の写真だ。
秋田と山形の県境に位置する標高2236mの鳥海山。
鳥海山周辺の砂利道を進むと、あちらこちらに小さな丘の高まりと大小さまざまな溜池が点在する冬師湿原。その池沼に鳥海山が映り込む。

この日は早朝から狙っていたが、なかなか風がやまず
ようやく風が落ち着いてきたころ、真っ青な空と共に残雪の鳥海山が姿を現した。
鏡のように水面に映る鳥海山の風景は絶景で見る人の心を強く引き付ける。
これからも私は鳥海山に恋をし、その素晴らしい姿をみたくて通い続けるだろう。

熊谷 達也 氏(作家)

 作品のレベルが非常に高く、感心しながら審査をした。前回に比べて、タイトルにも工夫がみられた。
 前回までの「祭り」「食」を統合した新設「暮らし」部門は、祭りをテーマにしたものが多かったが、「ハレ」ではない日常を切り取った写真をもっと見たい。普段見逃している何げないものに目を向ける習慣を付けると良いのではないか。「こんな写真もありだよね」という、ハッと気付かされる作品を見たい。
 特設の「鉄道」部門には、どんな写真が集まるのかと期待していた。風景の中の鉄道をただ撮るよりも、鉄道を取り巻く人々の生活を写し撮った作品のほうが面白かった。
 写真を見る時は面白い構図に目が行く。何を伝えたいかテーマ性がはっきりしている方が良い。今回気になったのは、印刷の際、両端が切り取られた作品がいくつかあったこと。奥行きと広がりが欠けて、惜しかった。仕上がりにも細やかな配慮をしてほしい。