デスク日誌

語り継ぐ

 あれから20年以上が過ぎても取材の記憶は鮮明に残っている。猛暑だった1994年8月。秋田総局で土崎空襲の体験者の聞き書きをした。戦後49年、戦災犠牲者の50回忌に合わせた。
 土崎空襲は、終戦前夜の45年8月14日の出来事だった。地元の警防団の元団長、負傷者が運び込まれた病院の元看護師、遺体が並べられた寺の僧侶。証言は生々しかった。若気の至りで表現の配慮を欠き、何度も書き直させられた。
 取材相手は70〜80代だった。冷たい麦茶を何杯も出してくれたおばあさん、風通しのいいお堂で「足を崩していいよ」と笑ってくれたおじいさんも、多くは鬼籍に入られただろう。「残された時間は少ないから」という言葉が耳に残る。
 新聞記者は歴史の記録者と言われる。日々の報道はもちろん、昔あった事柄を今に伝え、個々の記憶に公の価値を与えることもまた、使命なのだろう。
 私たちは東日本大震災を経験した。未曽有の災害も時がたてば歴史の一部になる。記者として、当事者の一人として、語り継ぐ責務を背負っている。23年前の夏は考えてもみなかったことが、今は身に染みる。
(報道部次長 今里直樹)


2017年08月13日日曜日


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