河北春秋

 江戸後期の文化3(1806)年、石巻。船主の家に乗組員の家族が集まった。「よく帰った」。船主が優しく語ると、初老の男が深々と頭を下げた。名は津太夫(つだゆう)。仲間と一緒に、日本人として初めて世界を一周した物語を語り始めた−▼芸人のダメじゃん小出さん(48)=東京都=による語り芸『若宮丸漂流物語』が14日、津太夫の故郷である塩釜市であった。福島沖で難破し、ロシアで暮らしてから地球を一周する経路で帰国した約200年前の壮大な漂流譚(たん)。フィクションも交えた小出さんの語りは臨場感たっぷり▼仲間が病に倒れたり、異国にそのまま残ったりする中で助け合い、乗組員16人のうち津太夫ら4人がロシア船ナジェージダ号に乗り込んで無事帰国を果たした▼13年間の旅を語り終えた津太夫は翌朝、日和山に登り神社を拝む。眼下の港から帆を張った千石船が1隻また1隻と出て行った−。「話はこれで全てです」。1時間半に及ぶ熱演だった。原案は「石巻若宮丸漂流民の会」事務局長の大島幹雄さん(63)=横浜市=の小説▼大島さんは東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市の生まれ。「運命に立ち向かい、困難を乗り越えていく若宮丸の乗組員が震災後の古里と重なりました」。ナジェージダはロシア語で「希望」を意味する。(2017.1.16) 


2017年01月16日月曜日


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