河北春秋

 全国各地の文学館が「3.11 文学館からのメッセージ」として、毎年この時期に共同展示を実施している。今年は30施設が参加し、青森県近代文学館は、昨年亡くなった津島佑子さんを追悼し、原発事故を受けて書かれた長編『ヤマネコ・ドーム』に焦点を当てる▼終戦後、孤児として「ホーム」で育った米兵と日本人との混血児たちと、彼らを巡る人々の物語。通底するのは、登場人物みなが背負う何らかの罪の意識や、見えないものへの恐れだろうか▼唯一の被爆国でありながら重大な原子力事故を引き起こし、周辺に放射能をまき散らしたこと、立ち止まるチャンスがあったのに無関心でいたこと。私たちは苦い後悔を記憶の底に押し込めようとしてはいないか。作家も気取っている場合ではないと、津島さんは創作以外の場で発言することもあった▼そんな津島さんが、震災間もなく、被災した人々に伝えたいと紹介していた言葉がある。「どんな不運に見舞われても、不幸になっちゃいけない」。夫(太宰治)も息子も早くに亡くした母が、8歳の子どもを失った津島さんに語り掛けた▼死者が生者に寄り添い、言葉を交わす「ヤマネコ・ドーム」の物語。自然を身勝手に汚す人間や差別に批判の目を向けた表現者は、今なら何を語っただろうか。(2017.3.14) 


2017年03月14日火曜日


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