河北春秋

 普段は見られない場所の満開の桜を先日眺めた。視察の機会があった東京電力福島第1原発(福島県大熊、双葉両町)。かつて構内で約千本が咲き競ったというが、原発事故後の新たな施設造成のため400本ほどに減った▼6年前に水素爆発事故を起こした1号機の周囲では危険なレベルの放射線量が続くが、がれき処理や除染の結果、構内の仕事に携わる人々は大半の区域を防護服なしで歩く。食堂も店開きし、女性従業員たちが温かい定食を賄う▼凄惨(せいさん)な戦場のようだった第1原発にも「日常」がようやく戻ってきた。心を和ませる桜の向こうには、しかし、汚染水の処理水をためたタンクが多数林立し、原子炉建屋の内側には溶融燃料が手つかずで残されている。廃炉への作業は40年続くといわれる▼そこから10キロ足らず先でまた見事な春の景色を目にした。富岡町のJR夜ノ森駅近くの桜並木だった。淡いピンクの雲のような絢爛(けんらん)たる美しさ。町は今月1日に避難指示解除を迎えたが、満開の花を見上げる人影はなかった▼廃炉のため毎日約6千人が働く第1原発の隣に、いまだ帰還困難区域を抱え無人に近い町がある。どちらも原発事故の終わらぬ現実だ。古里を遠く離れて避難生活を続ける住民たちはこの春、どこで桜を眺めただろうか。(2017.4.23) 


2017年04月23日日曜日


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