河北春秋

 <健全な精神は健全な肉体に宿る>。スポーツに絡む小説や随筆を数多く書いた故虫明亜呂無(むしあけあろむ)さんは「あれは誤訳」と指摘している。健やかな肉体と精神があれば後は富も名誉も地位も何もいらない、との意味が正しいという▼著作集『肉体への憎しみ』によれば、この名言を残した古代ローマの詩人ユベナリスは「欲しいもの全てを神に祈るな。身の破滅につながる」と限りなく欲を抱くことを戒めたらしい。どこか言葉の奥にスポーツの原点を見るような思いがする▼ロシアのスポーツ界はアレもコレも求めた。勝負に勝つ、カネを稼ぐ、尊敬を得る…。そのためには何よりも体の改造が大切とひた走る。心の鍛錬? そんなものは目的達成においては後回しでよかったのだろう▼国際オリンピック委員会はロシアの組織的な禁止薬物使用を断罪した。同国委員会(ROC)を資格停止とし、来年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪から選手団を除外する。一方、潔白を証明できた選手は個人資格で参加できるという。ROCの資格は止めるが、個人なら認めるというのは組織論としておかしくないか▼五輪憲章はスポーツを通して社会正義を体現するとうたう。個人参加は「国ぐるみ」を否定し続ける国家の抜け道にも見える。憲章の「誤訳」にならないことを祈る。(2017.12.8) 


2017年12月08日金曜日


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