河北春秋

 海で溺れかけた経験がある。覚えたての泳ぎで沖に向かい、予期せぬ深みにわれを失った。駄目だと思った瞬間、波がふわりと浅瀬に運んでくれた。自然の力が人の運不運を分けることがある▼開会中の平昌冬季五輪では、気まぐれな強風が歴戦の選手たちを翻弄(ほんろう)している。テレビ観戦で同情したのはスノーボード競技。転倒者が相次ぎ、本領を発揮できず悔しがる日本の女子選手らが痛々しかった▼空中を飛ぶノルディックスキー・ジャンプへの影響はなおさら。めまぐるしく変わる風の向きと強さに男子ジャンパー陣が苦しんだ試合の後、12日夜にあった女子競技。やはり風が千変万化する中、高梨沙羅選手が見事に飛んで銅メダルに輝いた▼天才少女として登場し、17歳で臨んだ前回ソチ五輪で「金」を期待されながら4位。W杯通算53勝の無敵ぶりから最近遠ざかっていたが、悪条件に打ち勝った集中力と強く美しい技は、運不運や順位を超えて本物だった▼米国の詩人E・W・ウィルコックスの『運命の風』に「船の行く先を告げるのは風でなく帆。運命の行き先を決めるのは魂」との一節がある。この夜のジャンプを「記憶に残る、競技人生の糧になる、すごく貴重な経験」と語った謙虚な21歳の行く先に、最高の色のメダルも待っていよう。(2018.2.14) 


2018年02月14日水曜日


先頭に戻る