社説

震災5年の節目へ/犠牲繰り返さぬ誓い新たに

 出会った人のうち1人でもいいんです。私の体験が伝わり、備えを真剣に考えてくれるなら、犠牲を1人減らすことができるかもしれない。
 だから、あの日のことをずっと語り続けたい−。
 石巻市の17歳、高校2年の女子生徒は、東日本大震災の「語り部」活動を始めた思いをそう話してくれた。
 東松島市野蒜小6年の時に被災し、自宅は全壊流失して祖父が命を落とした。自身が避難した小学校体育館は津波に襲われ渦巻く悲劇の場となり、多数の犠牲が出た。
 家族で普段から津波のことを深く語り合っていれば…、学校の避難先が高台も含めて複数考えられていたら…。数々の悔いがわだかまる。
 しばらくは震災の出来事が受け止めきれなかったが、3年、4年とたち高校生になって向き合うことが増え、風化も気になり始めたという。
 「多くの犠牲が忘れられてはいけない」「長く語り継いで、教訓を伝えられるのは私たちの世代ではないか」
 責務のような思いを胸に同級生仲間と手を取り、視察で現地を訪れる人たちに昨年5月から体験を語り続ける。
 被災地では、同じように当時児童生徒だった若い世代があの日のことを進んで語ろうとする動きが、4年を過ぎるあたりから目立ち始めた。
 直後は心の傷のケアが最優先されたが、気持ちを整理するためにも体験を思い返して語ってみてはどうかという働き掛けが最近は少しずつ受け入れられるようになった。
 ちょうど被災地が忘れられる懸念が身近に実感され、個々の記憶を心に刻み直して教訓として伝え残す意義が顧みられた時期とも重なる。
 あの日を深く語り合うにはそれだけの時の流れが必要だったとも言えるだろう。
 被災地は震災から5度目の正月を迎えた。3月には発生丸5年の節目が訪れる。
 これからの3カ月は政策や制度の是非も含めて復旧・復興の過程を徹底して検証し、その先を展望する重要な機会になるが、もう一つ忘れてはならないことがある。
 震災の本質である2万人近い犠牲が出た事実を直視し直すことであり、鎮魂を土台に犠牲の反省や教訓の掘り起こし、集約に努めることだ。
 高校生の語り部活動が象徴するように、歳月を経てようやく震災犠牲と正面から深く向き合える人たちが現れ、世代や地域の違いを超えて体験と教訓を共有し、発信に動く機運が芽生え始めている。
 震災と同じ犠牲を繰り返さない誓いを新たにし、すべきこと、できることを整理して次代につないでいきたい。
 それは被災地内はもちろん、南海トラフ巨大地震など全国や世界の次なる被災想定地域の未来につながる役割であり、何よりも犠牲者の無念に応える取り組みになる。
 語り部の女子生徒のように、一人一人が発信者になることで救える命があることを信ずる姿勢こそが力を持つ。
 大きな節目を控えた振り返りの機会を生かし、あらためて家庭や職場、地域のレベルから一歩を始めてみよう。
 震災の風化は内なる風化から始まるものと心得たい。


2016年01月03日日曜日


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