社説

防災・減災 東北大災害研/設立理念、いまこそ実現を

 東日本大震災の発生から間もなく5年。被災地に拠点を置く東北大災害科学国際研究所(災害研)が新年度、新たなステージへと踏み出す。
 研究員個々が蓄積してきた防災・減災の知見を、誰でも利用できるパッケージにして地域に還元するのだという。つまり研究の「見える化」。今村文彦所長の言を借りれば「これからは論文を書くことより、社会の役に立つことが災害研の存在意義となる」。
 モデルとしたのは、阪神大震災を契機に兵庫県が設立した「人と防災未来センター」(神戸市)だ。「アーカイブ」「防災研究」「自治体支援」など多様な機能が集積しており、中でも地域防災の最前線に立つ自治体職員を対象とした実践研修の提供には以前から定評があった。
 東日本大震災後は受講希望者が増加しており、全国にもう1カ所、同様の研修機関設置を望む声が高まっていた。
 災害研が提供しようと考えている研修は、災害の種類や規模ごとに避難所の運営方法から復興計画の策定手順までを体系的に学ぶプログラムとなる。被災地と共に歩む災害研究機関の任をしっかり果たしてほしい。
 最大の被災地石巻の南浜地区には、国営で復興祈念公園の整備が予定されている。ここに浮上したビジターズセンターの建設構想にも災害研は関与を目指す。
 遺構・遺物や体験型の展示施設は神戸の未来センターにもあるが、構想が実際に動きだすまでには震災発生から4年の歳月を必要とした。
 震災の惨禍を後世に伝え、子どもたちの防災教育に役立てるのは、言うまでもなく私たち被災世代の責務だ。一方で被災地の住民感情への配慮を欠いてはならない。災害研の働き掛けは、建設的議論の契機にもなり得る。
 このほか、多賀城高(多賀城市)に今春開設される防災科学科のカリキュラム作成や講師派遣、南海トラフ巨大地震が懸念される西日本各地での出張講座などプロジェクトが多数始動する。
 「実践的防災学」の確立を掲げて2012年4月に発足した災害研にとっては、基礎研究から本来目標への飛躍。と同時に「研究第一主義」の理念がともすれば内向きの理論に陥りがちな東北大にとっても、旧弊打破の嚆矢(こうし)となるだろう。
 災害研の研究には本年度、新たに倫理審査が義務付けられた。審査にパスしなければ調査研究に着手できない。ときとして侵襲性の高い研究を手掛ける医学系研究員の増加に伴って取り入れられた。
 趣旨は十分理解するものの、審査によって災害研が被災地で継続実施してきた調査が突如「不可」となる事態が起きている。さらには学外組織と提携した調査研究にも影響が出始めた。
 自由闊達(かったつ)だった研究活動を後から決まったルールが阻害するのでは本末転倒。到底、学究的態度とはいえない。
 あるいは学内のくびきを息苦しく感じた結果なのかどうか。とにもかくにも開設以来、学際的研究を志向してきた災害研が積極的に外界へと飛び出す姿勢を評価したい。


2016年01月17日日曜日

先頭に戻る