社説
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DNA鑑定で逆転無罪/証拠の恣意的利用を戒める

 決定的証拠とされる切り札のDNA鑑定まで曖昧な扱いがなされたのでは、捜査への不信は募るばかりだろう。
 強姦(ごうかん)罪に問われ、一審で懲役4年の実刑判決を受けた鹿児島市の男性被告に対し、福岡高裁宮崎支部が先週、逆転無罪判決を言い渡した。
 一審審理で「微量のため不能」とされていたDNA鑑定を高裁がやり直した結果、別人のDNA型が検出され、男性の関与が否定された。
 判決は捜査側による恣意(しい)的な証拠隠しの可能性にも言及し、証拠の取り扱いを批判する内容を含む。
 特異な事案での判断というより、自らの都合で証拠の操作に走りかねない警察や検察の構造的体質を厳しく戒めたものと受け止められる。
 DNA鑑定はもちろんその他の捜査証拠も、有罪立証のためにあるのではなく、あくまで裁判で真実を究明するためにあるという大原則を確認し直す必要があるだろう。
 冤罪(えんざい)を繰り返さないため捜査経過の徹底検証に取り組み、逆転無罪の重みを教訓として関係者で共有することを強く求める。
 DNA鑑定は数兆人に1人の確率で個人を特定できるまで技術が進み、有効性への期待は高い。それだけに厳密な取り扱いが必要だが、再審無罪の「足利事件」でも捜査段階の「一致」鑑定がその後に覆る経過をたどった。
 警察庁は足利事件で問題になった鑑定記録のずさんな管理を検証し、適切な保管を通達で指示したが、今回の事案を見れば、現場では不徹底だったことが明らかだ。
 高裁判決は、鹿児島県警科学捜査研究所の職員が鑑定数値などを記したメモや使用後のDNA溶液を全て廃棄した経緯を批判。「捜査官の意向を受けて判定不能とした可能性がある」と指摘した。
 被告とは別人のDNAが検出されて捜査の見立てと違ったため意図的に廃棄した、との推測に踏み込み、記録の管理以前に捜査倫理の欠如を非難した点が注目される。
 決定的証拠だからこそ、後日の検証で再現が可能なように記録や試料の保護、管理を徹底し、経緯やデータを開示する必要がある。当たり前の手順が履行されていないことに警鐘を鳴らした内容だ。
 DNA鑑定に限らないことではあるが、特に重要な捜査証拠については捜査側の独占に委ねるのではなく、管理や開示のルールを法律で規定する必要性を専門家が指摘している。今回の判決を受け、議論を進める必要がある。
 鹿児島県警は、2003年の県議選をめぐる選挙違反冤罪事件(志布志事件)で強引な取り調べや自白偏重が批判され、捜査の適正化が課題になってきた。証拠を都合良く利用したと批判された今回の捜査経過を見る限り、冤罪事件の教訓は置き去りにされたと言わざるを得ない。
 大阪市東住吉区の小6女児が焼死した火災で無期刑が確定した2人の被告の再審開始が決まるなど、冤罪を認定する判決がこのところ相次ぐ。捜査の在り方だけでなく、一審など裁判所の審理が適切だったかどうかも問われていることを忘れてはならない。


2016年01月20日水曜日

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