社説
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自衛隊監視判決/権力の圧力は許されない

 国家権力を背にした組織によって監視活動の対象とされれば、自由に物が言えない社会になる−。そんなまっとうな訴えに、正面から答える判断は示されなかった。
 イラク派遣反対集会に参加した市民に対する自衛隊情報保全隊の監視活動の違法性が問われた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁がきのう、情報収集の一部でプライバシーの侵害があったことを認め、国に損害賠償を命じた。
 判決は、原告の市民側が求め続けた監視活動自体の差し止め請求を却下し、賠償の対象を一審判決の5人から1人に絞り込んだ。
 限定的ながら、情報収集の違法性をいさめた意義は決して小さくはないが、全体としては市民感覚をくまない内容と言わざるを得ない。
 特定秘密保護法が施行され、国による秘密裏の情報管理と統制の在り方に懸念が強まる中、切実な恐怖感を訴えて人権重視の観点から一定の歯止めを求める市民の声に、司法はきちんと向き合う必要があったのではないか。
 国と自衛隊ともに、判決の聞き流しが許されないことは言うまでもない。一部ではあっても情報収集の行き過ぎが高裁でも認定されたことを謙虚に反省し、監視活動の適正化と説明責任に努める姿勢に徹することを求めたい。
 情報保全隊の活動が、何の目的でどの程度の広がりをもって行われているか、詳細はいまだ判然としない。
 控訴審では元情報保全隊長が証人尋問に答え、「外部の働き掛けから部隊を守り、…機密を探り、業務を妨害する可能性のある団体の動きを情報収集する」と初めて公の場で活動内容を説明した。
 具体的な妨害行為がなくても情報を集めることや、集める個人情報には場合によって交友関係などプライバシーに関わるものが含まれる可能性があることも示唆した。
 高裁判決は「反対運動が自衛隊に直接的対応を迫る形でなされる場合は必要性がある」として、イラク派遣反対運動が活発だった当時の活動の妥当性を認めたが、一般的な市民集会での発言や行動までもが業務に影響のある行為と解釈されるのでは、監視活動は野放しになりかねない。
 実際に判決は、情報保全隊が年金改革反対や春闘の集会も情報収集の対象にしていたことを「必要性を認めがたい」と批判している。「一定の限度があるべきで、態様によっては違法性を有する場合があり得る」とも指摘しており、無制限でないことの確認があらためて求められる。
 判決は、情報収集が強制的な形で行われなかったとして市民側の不利益を認めなかったが、不必要な場面も含む度重なる監視を市民側が萎縮につながる圧力、精神的苦痛と受け止めた事実は重い。
 公権力による有形無形の圧力を広く許しては言論や表現や思想の自由は脅かされ、社会の基盤は危うくなる。
 安全保障関連法の成立などで国の行く末を懸念する声も高まる中、その振る舞いはより抑制的であるべきだ。自衛隊の監視活動に限らない警鐘として、訴訟の問いかけを肝に銘ずる必要がある。


2016年02月03日水曜日

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