社説
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高齢者と薬/適切な処方促す体制整備を

 食事が終わるとテーブルの上に薬を何個も並べ、水をもらって次々と飲み込む。高齢者のいる家庭では、よく見る光景だ。
 お年寄りが集まると「持病自慢」のように病気や薬の話になる。処方通りに服用せず、薬を余らせていることが社会問題化している。一方で、多剤投与の弊害がどれだけ認識されているだろうか。
 厚生労働省の資料によると、65歳以上の高齢患者に対するある調査で、意識障害や肝機能障害、電解質異常、ふらつき・転倒、食欲不振など複数の投薬による副作用が14.7%にみられたという。
 特に服用する薬が6剤以上になると有害な事象の発生が増加する傾向にある。
 加齢に伴って、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などを抱えて複数の病院に通う人が増える。さらに腰や膝の痛み、排尿困難、不眠症といった症状があると、整形外科や泌尿器科など別の医療機関を受診して薬をもらう。
 薬局で「お薬手帳」を発行しているが、患者が服用する薬を総合的に管理する体制は十分とは言えない状況だ。
 高齢者は生理機能が低下。薬の種類によっては血中濃度が上昇したり、必要以上に蓄積したり、あるいは排せつに時間がかかったりする。
 人によっては通常の成人一人分の薬剤量が適合しない。不眠の際に処方される睡眠薬・抗不安薬の中には、高齢者に記憶障害や妄想、幻覚などの副作用を及ぼすと指摘されているものもある。複数の薬剤の相互作用で思わぬ症状を引き起こす恐れもある。
 1人暮らしながら元気でいた高齢者が、ちょっと病気で入院してから、急に認知障害が現れた、言動がおかしくなったという例も見聞きする。
 多種類の薬を投与され、副作用が強く出たせいかもしれないが、離れて暮らす家族には判断ができない。医療施設側もまずは急性期を乗り越える治療の方に重点を置く。
 一つの病院であれば医師と薬剤師の連携で、患者が院内の複数の診療科でもらっている薬の全体を把握し、減量することは可能だろう。
 しかし、病気や症状ごとに違う病院に通っている場合、他の医師が処方している薬を減らすことは難しいのではないか。改善に向けた研究、体制の整備が欠かせまい。
 年齢を重ねるほど複数の疾患を抱え、多剤併用、重複投薬、薬物間相互作用のリスクが高まる。高齢者の不適切な処方を減らすために医療機関、薬局の連携が必要だ。また高齢者にも薬の副作用や適正な服用について学んでもらう機会を設けてほしい。
 薬を出すほど利益を得るような現行のシステムのままでは、薬を減らす方向には進みにくい。専門家ではない一般の患者が薬の量を勝手に減らしたり、服用を中止したりするのもいいはずはない。
 かかりつけ医が、患者が受診している他の医師とも連絡を取り合って、薬の種類や量を調整する。そんな仕組みづくりを模索すべきだ。
 健康面だけでなく医療費の健全化のためにも、薬の適切な処方を促すような体制の構築が求められる。


2016年02月09日火曜日

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