社説

同一労働同一賃金/成否は社会の根幹にも及ぶ

 格差を放置していては、経済の好循環など望むべくもない。自らの経済政策が格差を広げたことを省みる言葉はなくとも、個人消費の低迷で政策のほころびが際立つ中、そのことに首相もようやく気付いた。そう受け止めていいのかもしれない。
 首相が施政方針演説で実現に意欲を示し、本格化してきた「同一労働同一賃金」をめぐる議論のことである。
 職務内容が同じなら同一の賃金を支払うべきだとの考え方であり、正社員と、派遣やパートといった非正規労働者との著しい格差を縮める、そうした格差是正を目指す。
 「非正規で働く人の待遇改善は待ったなしの重要課題だ」。首相はこうも強調した。
 大半が低賃金にあえぐ非正規労働は貧困、若者の未婚、少子化という社会の、日本の将来の根幹にも関わる課題である。いつまでに、どの程度、非正規の底上げを図るのか、議論の行方を注視したい。
 首相の唐突な「宣言」に、参院選を控えて格差問題に対する姿勢をアピールし、野党の主張を封じる狙いがあるとの指摘もある。が、その取り組みに国民が目を凝らしていることを忘れてはならない。
 政府は、5月にまとめる「1億総活躍プラン」でその実現を柱に据え、どのような場合に賃金の格差が許されるかを示す指針を年内につくり、その上で法制化する考えだ。
 注目したいのは指針づくりだ。正規と非正規という雇用形態の違いで賃金に差をつけるのを禁ずる。それを「原則」とすれば、賃金差が許されるケースは「例外」となる。
 先進地である欧州でも、勤続年数や資格の有無、幹部候補かどうかという「合理的な理由」があれば、例外として賃金差が認められている。
 そこで問題になるのが、年功序列を軸に残業や転勤、異動が伴う正社員の日本型賃金体系との兼ね合いだ。この賃金体系に配慮し、「合理的な理由」、格差を認める「例外」の範囲が広がれば、非正規の待遇改善につながらない恐れが強くなるのではないか。
 フルタイム労働者に対するパート労働者の時間当たりの賃金水準は日本で57%と、6割に満たない。フランスは9割、ドイツは8割だ。まずは仏独の水準に近づける指針づくりが求められよう。
 一方で企業の総人件費の問題がある。正社員の賃金を維持したまま、非正規の賃金を上げれば総人件費は膨らむ。総人件費を増やさず非正規の賃金を上げるには、正社員の賃金を下げるしかない。
 この問題をめぐり、特に中小企業にどんな支援が要るのか、とことん議論すべきだ。
 非正規は2千万人に上る。若い世代がしわ寄せを受け、中でも正社員の仕事がなく不本意ながら非正規の人が25〜34歳で3割近い。結婚もできず、少子化に拍車がかかる。
 女性に非正規が多く、特にシングルマザーや単身世帯の貧困が深刻だ。子どもへの貧困の連鎖とともに、将来の低年金層をも拡大しかねない。
 正社員化を含む非正規の待遇改善は、経済成長のみならず、そうした格差社会の改善に不可欠だ。社会のありようを問い直す議論を望みたい。


2016年02月27日土曜日

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