社説

東電元会長ら強制起訴/原因と責任の総括が必要だ

 福島第1原発事故をめぐり業務上過失致死傷罪で告訴・告発され、東京地検が2度不起訴とした東京電力の勝俣恒久元会長ら元幹部3人がきのう、強制起訴された。
 昨年7月に検察審査会が2度目の「起訴すべきだ」との議決を下したことに伴う予定された手続きではあるが、東日本大震災と福島事故から5年が経過する「あの日」を間近に控えた時期の強制起訴には、格別の意味が伴う。
 直前には、事故後の新規制基準の下で4基目となる関西電力高浜原発4号機(福井県)の再稼働があり、老朽原発で初となる高浜1、2号機の基準適合の判断も示された。
 原発回帰の流れが加速されたタイミングで、刑事責任追及の手続きが取られたことも象徴的に受け止めたい。
 多くの人の古里を奪った過酷な複合災害と事故はなぜ起きたのか。当時の経営トップは本当に未然に事故を防ぐことはできなかったのか。
 市民感覚を生かす検審制度の結果として取られた強制起訴の背後には、いまだ全体像が把握し切れていない事故原因の徹底解明と責任の明確化を求める国民の声がある。
 何よりも、なし崩し的に再稼働が進む中で「責任を曖昧にしたままでは、福島事故の失態が繰り返されるのではないか」という危機感や不安感を多くの国民が抱いていることを、この機会にもう一度確かめる必要がある。
 歴代社長3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された尼崎JR脱線事故の裁判で一審、二審と無罪判決が続いたように、災害や大事故で個人の刑事責任を問うことは一般的に困難とされている。
 今回も、刑事責任の要件になる予見可能性と結果回避可能性の立証は困難だとして、検察当局が不起訴の判断を下した経緯があり、難しい裁判になるのは必至だろう。
 しかし検審議決は、東電が2008年に社内の検討で「最大15.7メートルの津波が来て、4号機の原子炉周辺は2.6メートル浸水する」という予測を立てながら、対策を取らなかったことを「目をつぶって無視していたのに等しい状況だった」と厳しく指摘した。
 問われているのは東電の企業体質であり、それを主導した元幹部らの姿勢になる。
 先日は、事故後2カ月以上たってから東電がようやく認めた「炉心溶融」(メルトダウン)について、東電の社内マニュアルに照らせば、事故3日後の時点で判定できていたことが明らかになった。マニュアルは今月になって初めて「発見」されたという。
 極めて不自然な対応と説明であり、事故を矮小(わいしょう)化しようとしたと批判されるのは当然だ。数々の不信の先に、責任追及の声があることを東電はかみしめる必要がある。
 原点となった福島事故に立ち返り、事故原因と責任の所在をはっきりさせることなくして、再稼働原発の事故対策の確立はあり得ない。
 今後の裁判が法律解釈に終始することなく、事故対策を取りきれなかった東電組織の悪弊に迫り、経営トップの安全軽視の姿勢を検証して、事故全体を総括する場となることを強く期待する。


2016年03月01日火曜日

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