社説

「共謀罪」再提出へ/監視社会につながる悪法だ

 少々手直ししようが、悪法は悪法であることに変わりはない。これまでに3度も廃案になった「共謀罪」は、まさにその典型的なケース。
 政府は今月26日召集の臨時国会に、「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を変えた組織犯罪処罰法改正案を提出する方向で調整しているという。
 名前を変えたところで、本質的な危うさは同じ。国境を越えるテロの未然防止が大きな目的だとしても、いったん成立してしまえばどう運用されるのか強い不安が残る。
 実行行為が何もないまま、「共謀」や「準備」だけで膨大な数の犯罪を摘発できるようになってしまう。その行き着く先は、人権やプライバシーを顧みない暗い監視社会ではないのか。
 共謀罪はこれまで、国会で議論されるたびに重大な問題点を指摘されてきた。さまざまな論点を抱えているが、例えば「居酒屋で同僚と『あの上司を殺そうか』と話しただけで罪になるのか」と批判されたいきさつもある。
 そうなったらたまったものでないが、共謀の事実が認められれば犯罪行為とみなされて不思議はない。理屈の上ではそうなる。「ただの冗談。実行するはずがない」と言い訳したところで、犯罪成立には何ら影響を及ぼさないことになりかねない。
 提出が検討されている法案では、イメージの悪い共謀罪をやめてテロ等組織犯罪準備罪と名前を変え、対象も「団体」から「組織的犯罪集団」に変更するとみられる。
 以前の法案に比べるとテロ対策に特化したようにも見えるが、共謀罪の対象になる犯罪は600以上もあり、テロ行為に限っていない。
 組織的犯罪集団が一体何を指すのかもはっきりしない。複数の人間が犯罪を企てただけで、そうみなされる可能性はないのだろうか。
 また、構成要件に「実行の準備行為」を加えるという。共謀だけでは摘発できないことになるとはいえ、実行行為のかなり手前の段階で罪に問われることに変わりはない。
 捜査手法も問題になる。共謀を突き止めるには、通信傍受や監視カメラが必要になるはず。通信傍受法の改正で今年12月から、詐欺や盗みまで傍受が認められるようになるが、その動きはさらに拡大されるのではないか。
 監視カメラを巡っては、大分県警の別府署員が今年6月の参院選の公示前、野党を支援する団体が入る建物の敷地内に無断で設置したことが発覚した。こんな行為がはびこるようになったら、特定の組織や個人を狙い撃ちすることも簡単になってしまう。
 4年後の東京五輪を考えれば、国際的なテロ行為への対策は必要だろう。それは理解できるにしても、いったん歯止めがきかなくなったら取り返しがつかないような法律は問題が大きすぎる。
 日本は国際的な組織犯罪に対して無防備というわけではない。条約に合わせた国内法を備えていることは、以前から法律の専門家らが指摘している。共謀罪の創設は断念した上、大方の国民が賛成できる範囲内で国際テロ対策を進めていくべきだろう。


2016年09月06日火曜日


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