社説

憲法施行70年/「平和」に込められた思いは

 大きな功績を残しながら、歴史に埋もれた人物は少なくない。新たな目で掘り起こされ、光が当たるのはしばしば時代の転換期である。
 日本国憲法9条に「平和」の文言を入れたという元司法大臣鈴木義男(1894〜1963年)=白河市出身=も、そうした一人であろう。
 今からさかのぼること71年前。敗戦直後、日本社会党から出て衆院議員に初当選した鈴木は、帝国憲法改正案を議論する衆院特別委員会の小委員会のメンバーになった。
 論議の末、鈴木の提案を基に、GHQ(連合国軍総司令部)案にもなかった一節が追加修正された。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という9条1項の冒頭部分である。
 古関彰一独協大名誉教授が、憲法制定過程を調べる中で発掘した。近著『日本国憲法の誕生 増補改訂版』で、「戦争」の担い手が国家であるのに対して、「平和」は個々の国民の権利になった、と修正を高く評価している。
 「高き理想を掲げて(戦争を)撤廃する」(回顧録)という鈴木の熱情が吹き込まれた憲法は、施行から70年の節目を迎えた。ここにきて取り巻く環境は激変している。
 改憲勢力が衆参両院で発議に必要な3分の2の議席を占める中、両院の憲法審査会で論議が行われるなど、改憲の「体温」が徐々に高まってきているようにも映る。
 けん引役は安倍晋三首相だ。憲法施行70年を踏まえて「理想の憲法の具体的姿を国民に示す時だ」と訴えた。ただ、その中身についてはだんまりを決め込んでいる。
 首相が脱却を唱えた「戦後レジーム」は、憲法と表裏一体の関係にある。リセットをもくろむならば、象徴である9条を変えたいはず。緊急事態条項などは入り口にすぎない。9条改正への道筋を付けるため、超長期政権を思い描いているのは明らかだ。
 「今ほど鈴木が脚光を浴びているときはない。改憲への危機感が広まっていることの表れではないか」。鈴木が東北学院の中等部に在籍した縁で足跡を研究してきた仁昌寺正一・同大教授はこう語る。
 鈴木は戦前、東北帝国大学の教授を務めていたが、軍事教育を巡って軍部と対立、職を辞して弁護士に。その時に治安維持法違反事件の被告の弁護を引き受けている。
 仁昌寺氏は「戦争、人権抑圧の時代を経験したからこそ、何物にも拘束されず自由に生きられる『平和』の意味を深く考え、9条に組み入れたと思う」と真意を読み解く。
 時あたかも「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が国会で審議中。思想弾圧に利用された治安維持法になぞらえる批判もあり、仁昌寺氏は「戦前と似てきたのでは」と危惧する。
 鈴木が追い求めた理想の「平和」とは何か。憲法記念日に思い巡らしてみたい。


2017年05月03日水曜日


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