社説

米国抜きTPP/正負の影響説明し議論を

 米国が離脱した環太平洋連携協定(TPP)を巡り、残る参加11カ国が協定の早期発効に向けた選択肢の検討を始める。ベトナムであったTPPの閣僚会合で、そう合意し声明に盛り込んだ。作業は11月までに終えるとしている。
 「TPP11」と呼ばれる米国抜きでの早期発効を目指す日本は、「同志」のニュージーランドなどと共に今後も議論を主導することになる。
 もっとも、各国の思惑はバラバラで足並みはそろっていない。TPPの合意事項は巨大市場・米国を含む12カ国がそろって調和が取れていた。その巨大ピースが欠けてバランスが崩れた状況からの交渉は、一筋縄ではいくまい。
 とはいえ、11カ国はTPP漂流の事態をひとまず回避。TPP11を有力な選択肢に、多国間協議を本格化させる。
 だが、米国離脱でスケールは小さくなったが、その行方は農業を含め国内の各産業の今後に関わる。TPPに関しては情報開示不足に批判が絶えなかった。同じ轍(てつ)を踏まぬよう、政府には節目ごとに丁寧な説明を求めたい。
 日本政府はTPPについて「米国抜きでは意味がない」と強調してきたにもかかわらず、TPP11実現にかじを切った。そもそも、なぜ方針を転換したのか、政府からは明快な説明がない。こうした姿勢を改めねばならない。
 その背景には、こんな思惑が働いたと言われている。
 TPP11が実現しオーストラリアなどから牛肉や乳製品の対日輸出が増えれば、そのことが米国のTPP復帰を促す呼び水になる。一方では、成長が続くアジア太平洋地域で、米国離脱に伴い存在感を増す中国をけん制しつつ、日本が自由貿易推進の主導権を握る、そうした思惑だ。
 確かにトランプ政権をはじめ、欧米で保護主義的な流れが強まる中、自由貿易の旗を高く掲げることは大切だ。
 だが、もう一つ重要なのは米国抜きの新たな枠組みでどんな正負の経済効果があるのか、という視点ではないか。
 ほかの10カ国を見ると、ニュージーランドとカナダを除く8カ国とは経済連携協定(EPA)を締結済みだ。屋上屋を架すようなTPP11で、どれだけのメリットがあるのか。疑問というほかはない。
 11カ国全てではなく、有志国による先行発効も選択肢の一つとされる。中核となるのは日本と、日本市場へ農産物輸出拡大を見込むニュージーランド、オーストラリアだ。
 日本は米国産の輸入増を前提に、乳製品の輸入枠拡大や牛・豚肉の緊急輸入制限措置で合意している。だが、その約束が新たな枠組みに対応して見直されなければ、一方的に不利益を被る形となろう。
 こうした疑問、問題点を放置してはなるまい。政府は今後の交渉状況とともに、選択肢を巡るメリット、デメリットについて国民に説明し、議論を深めなければならない。


2017年05月24日水曜日


先頭に戻る