社説

台風10号豪雨から1年/治山こそが治水の基本だ

 岩手県内だけで死者・行方不明者23人という犠牲を出した台風10号豪雨から30日で1年がたとうとしている。
 今年7月には秋田や九州北部が、やはり大雨による被害に見舞われた。各地で繰り返される水害を異常気象だからと嘆いていてばかりもいられまい。台風10号被害から防災のヒントを見いだしたい。
 被害が集中した岩手県岩泉町の小本(おもと)川流域では、大量の流木が橋桁に引っ掛かって流れをせき止め、土石流が周辺集落を襲った。
 岩手大工学部の大河原正文准教授(地盤工学)の調査によると、岩泉町の山間部では土石流や斜面崩壊が1千カ所以上で起きていた。保水性の低い表層土が雨水を蓄えきれず土砂崩れが起きたという。
 1年が経過した被災地では現在、砂防ダム16基の建設が進んでいる。渓流1本当たり砂防ダム1基を整備する計画で、流木や土砂が下流部に達するのを食い止める。
 むろん必要な対策であり、一定程度の効果も見込めるだろう。だが、対症療法の域を出ていないのもまた事実だ。根治を目指すなら、なぜ表層土は崩れたのか、土石流は砂防ダムでしか防ぎ得ないのかを考えるべきではないか。
 ほぼ1日で8月1カ月分の平年雨量をはるかに上回る248.0ミリという豪雨の中、ほとんど無傷で台風をやり過ごした場所が岩泉町内にある。「中洞牧場」だ。
 適正管理で更新した樹木の根が天然の土留めとなり、放牧牛が牧草をはんで形成した野芝が天然のダムになった。牧草地は未曽有の雨量を受け止めて台風が過ぎ去った後、1カ月かけて少しずつ排水していった。
 町の惨状を目の当たりにした牧場主の中洞正さんは、山中に放置された倒木や切り倒したまま捨て置かれた間伐材が、被害の拡大を招いたと指摘。土砂災害や水害を最小限に食い止めるには、森を育て管理する林業の復権が不可欠と訴える。
 確かに山林の荒廃は現在、全国規模で拡大の一途だ。その要因は何か。民間のシンクタンク、東京財団は地権者の管理放棄や登記手続きの放置にあるとした。
 試算によると、30年後には全国で300万ヘクタール以上の山林が所有者不明になるという。内訳は(1)民有山林が約170万ヘクタール(2)共有林野が100万ヘクタール(3)耕作放棄地約40万ヘクタール。総面積は南東北3県に匹敵する。
 乱開発のツケも指摘されよう。バブル経済が崩壊した後、山肌を削って造成されたゴルフ場などの経営破綻が相次ぎ、荒廃地だけが残った。
 国土が適正に管理されない事態には、国も強い危機感を抱いている。例えば特区や特例法を創設し、一定の条件を満たした林業者には所有者不明山林の管理・伐採を許可するなどの措置も必要だろう。
 治山こそが治水の基本と、あらためて肝に銘じたい。


2017年08月27日日曜日


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