社説

米、エルサレム認定/不必要なリスク生むだけだ

 この政策転換が、新たな混迷の火種になりはしないかと大いに懸念される。
 米国のトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、商都テルアビブにある米大使館を移転するよう指示したことである。
 国際社会は、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」を中東和平の原則としてきた。その道をつけたのが当の米国であり、今は暗礁に乗り上げているとはいえ、和平交渉で仲介役を務めてきたのも米国である。
 その国が一方的にイスラエルの肩を持つ決断にかじを切った。「公正な仲介者」としての信用を失墜させたのみならず、エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があるだけに、歴史的、そして宗教的な対立にも油を注ぐことになりかねない。
 東エルサレムを首都と位置付け国家樹立を目指すパレスチナ自治政府はむろん、アラブ・イスラム諸国は一斉に反発。欧州各国を含め国際社会にも不支持、失望が広がる。
 この決定は、不必要なリスクを生むだけではないのか。そう言わざるを得ない。
 和平交渉の早期再開は望めまい。中東各地で反米感情が高まろう。イスラム過激派には格好の口実を与えることにもなりかねず、国際テロ組織が勢いづく恐れもある。
 石油供給元である中東が不安定化すれば、エネルギー問題の形で、日本を含む世界にも波及する。
 米議会は1995年、エルサレムの首都認定と大使館移転を求める法律を可決はしている。だが歴代政権は米国の国際的な責任も踏まえ、執行を延期してきた経緯がある。
 確かに大使館移転はトランプ氏にとって、大統領選で掲げた公約の一つである。だが今年6月、混乱を懸念する政権内の意見に配慮し、いったんは半年間の先送りを決めている。それがなぜ今、公約実現に踏み切ったのか。
 その背景の一つとして挙げられるのが、ロシアによる米大統領選干渉疑惑を巡る捜査が前大統領補佐官に及び急進展、大統領の支持率低迷に拍車をかけていることだ。
 政権浮揚へ支持基盤をつなぎ留めておくとともに、国民の目をロシア疑惑からそらす。そうした心理が働いたのではないかとみられている。
 ガラス細工を組み上げるような中東和平を政治の道具とすることなどあってはならない。もっとも、トランプ氏は和平実現に「深く関与し全力を尽くす」とも語り「新たなアプローチ」を始めると表明した。しかし、そのアプローチについての説明はない。
 いま、国際社会が米国に求めたいのは、「2国家共存」という和平の枠組みを崩壊に導くことではない。新たなアプローチという中東和平の新戦略構想がトランプ政権にあるとするならば、まずはその筋道をしっかりと構築し提示することである。


2017年12月08日金曜日


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