社説

震災伝承/正念場の覚悟を共有しよう

 犠牲者の無念も、生き残った者の苦闘も、復旧復興の苦節も、そして得られた数々の教訓も、忘れ去られることなくしっかり伝え残したい。
 被災者のそんな思いが集約されたからに違いない。東日本大震災の被災地で、記憶と教訓の伝承を強化しようという動きが目立ち始めた。
 関連死を含めて4千人近い犠牲が出た最大被災地、石巻市では昨年11月、有志の連携組織「3.11メモリアルネットワーク」が発足した。
 児童と教員84人が犠牲になった大川小の被災を語り継ぐ「大川伝承の会」の遺族をはじめ、地域で地道に語り部活動を続けてきた団体や個人、それらの活動を支援してきた関係者が広く参加する。
 岩手や福島からの参加もあり、登録は想定以上の37団体、169人に膨らんでいる。震災からもうすぐ7年、ここが伝承の正念場と多くの人が意識している表れだろう。
 石巻市の南浜地区では、被災3県にそれぞれ1カ所ずつ整備される国営の津波追悼祈念公園の計画が進む。2020年度の完成を目指し、施設の計画は固まったものの、追悼とともに重視される震災伝承や教訓発信の拠点としての活用は検討が遅れている。
 ハード先行でソフトが後回しになっている現状に業を煮やした形で、語り部活動の最前線からネットワーク結成の動きは起きたという。国や県の復興事業が終盤に入る中で、残された課題として伝承の重みが被災地で強く意識され始めたことも背景にある。
 「犠牲を無駄にしないために、次の命を守る。そのために手をつないで活動を広げていきたい」。風化の懸念が広がる中、遺族や語り部たちの覚悟に向き合い、願いを共有する姿勢があらためて被災地全体に求められている。
 語り部による伝承活動の多くは、遺族や有志の熱意に頼っているのが実情だ。観光協会などが窓口になって要請に応え、案内料を定めて対応している団体もあるが、活動の基盤はどこも弱い。語りの手法や内容もまちまちで、被災体験の振り返りにとどまり、肝心の教訓の伝達まで至らないケースもある。
 石巻で発足したネットワークは寄付を呼び掛け、活動資金に充てる基金を創設し、語り部の研修や次世代の育成まで取り組む計画を立てる。継続的な語り部活動を支えるためには、いずれ態勢や資金面で国や自治体による公的な支援も必須になるだろう。
 宮城県内では伝承や慰霊の施設、震災遺構が、自治体開設分だけでこの2年間に12カ所整備された。今後3年間で新たに10カ所が完成する。これら施設をどう活用し、伝承と教訓発信に重点的に取り組むか。自治体が向き合うべき当面の優先課題になる。
 復興と並行して本格的に伝承のステージが整う転機。震災伝承のうねりを官民一体でつくり出していきたい。


2018年01月20日土曜日


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