河北新報特集紙面2012

2012年9月11日 河北新報掲載

vol.2 応援の気持ち お金に託す。

「今できることプロジェクト」とは、市民の皆さん、企業・団体の皆さん、河北新報社が一緒になって、これからの被災地・被災者支援のあり方を考え、具体的なアクションへとつなげていくプロジェクトです。紙面では毎回、実際に行われている支援の事例を、いくつかの支援スタイルに分けて取り上げ、支援する立場の人と支援を受ける立場の人、双方の生の声をご紹介します。
今回のテーマは、「出資型支援」。被災企業を支援するファンドに小口でも出資することで、被災企業再建に役立ててもらう仕組みです。

気仙沼市のアンカーコーヒーに出資した仙台市の会社員 佐藤香世子さん(50)

再建を長く見守る支援 無力感がいつしか消えた

震災後、出資という形で被災企業を支援するファンドが複数生まれました。ある女性はその一つを利用し、気仙沼市の「アンカーコーヒー」というコーヒーチェーンに出資しました。再建までの長い道のりを、見守るように応援しています。

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2年前、大崎市にあるアンカーコーヒーの姉妹店に行ったことがありました。電話で場所を尋ねたときのスタッフの親切な対応、「お待ちしていました」の言葉。商品説明もニコニコ笑顔です。マニュアル通りとは違う暖かな接客でした。また訪ねたいと思っているうちに震災が起きました。
当時は沿岸の被災地に行けず、何の役にも立てない自分に腹が立ちました。そんな時に「セキュリテ被災地応援ファンド」を知りました。1万円から参加できるし、出したお金がどんなふうに役立つか見える。脳裏に、アンカーコーヒーの爽やかで思いやりのある接客が浮かびました。「この仕組みなら自分にも何かできる」。無力感は消えていきました。 同社の理念は「コーヒーのあるライフスタイルと喜びを提供する」ことです。クルーにも徹底して共有されています。地方の小さな企業でも優れた人材を育て、お客様に感動を与えることができるのですね。素晴らしい企業を応援できて嬉しいかぎりです。
震災から1年半が経っても、何もできないと悩んでいる人は多いでしょう。けれど、応援ファンドのように離れていても、時間がなくてもできる支援があります。多くの人に知ってほしいと心から思っています。

アンカーコーヒー&バル田中前店スタッフ 小野寺有希さん(30)

働く場所がある嬉しさ 感謝の心を地域に返したい

全国から寄せられた出資金は、金額以上の力となって被災地の企業と従業員を支えています。

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震災当日まで気仙沼市のアンカーコーヒー本店の店長でした。わたしは避難ビルから、津波が店を襲う様子を茫然と眺めていました。恐怖と不安でいっぱいだったことを思い出します。2店舗が被災した中で、会社はすぐに事業と雇用の継続を決めました。わたしは一関市の店に通い、ほかのスタッフとワークシェアして何とか仕事を続けることができました。
幸いなことにファンドの応援を受け、再建につながる資金は早々に集まりました。一部を使い、焙煎機を新たに購入できました。気仙沼には昨年末に仮設店舗がオープン。地元にまた働ける場所ができて本当に良かったです。
全国の出資者のみなさまからは応援の手紙や品物が届きました。遠方から店を訪ねてくださる方もいます。見ず知らずの方が応援ファンドを通じて当社を知り、見守ってくださる。みなさまとのつながりを保ち、長くお付き合いできることが本当に嬉しく、感謝の言葉では表せません。
復興までの道のりは始まったばかり。会社は市内に本店の新設場所を探していますが、見つかっていません。被災地は整備されておらず、適当な場所があったとしても高騰しているためです。大変ですが、悲しみに暮れる状態から少し踏み出して前を向けるようになりました。
いまは早く本店の営業を再開したい。サービスを通じてお客様を元気にし、復興を盛り立てることが、出資者のみなさまをはじめとする支援者への恩返しだと思っています。

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◎セキュリテ被災地応援ファンド

東京の「ミュージックセキュリティーズ」が運営する被災企業支援ファンド。出したお金の半分が出資金、半分が寄付金として充てられます。1万円の小口から利用できる(手数料500円は別)ことや出資先を自分で選べることなどが特徴。企業の再建が上手くいかなければ出資金が戻らないリスクもあります。9月現在、出資者の総数は2万3000人、総額は約8億円に上りました。これまでアンカーコーヒーを含む20件のファンドが資金を調達して募集を終えましたが、17件が募集を続けています。

セキュリテ被災地応援ファンド以外にも、被災事業者の再建に向けて出資や支援金を募っているプロジェクトがあります。主なものを紹介します。

  1. 1復興志士ファンド 運営者:一般社団法人 MAKOTO(仙台市)
    復興をけん引しようという志のある経営者に投資する。1口1万円の小口を寄付扱いで受け付けている。
  2. 2うらと海の子再生プロジェクト 運営者:一般社団法人 うらと海の子再生プロジェクト(塩釜市)
    塩釜市・浦戸諸島の漁業者を支援する。1口1万円の支援金を募り、漁業資材の購入や設備の修繕などに充てている。
  3. 3復興支援 旬のお任せ野菜セット オーナー制度 運営者:ふるさとファーム(宮城県亘理町)
    1口1万2000円のオーナーに農家が生産した野菜を計3回送る。収入の一部をハウスの再建や農機具修理などに充てる。
  4. 4大曲浜サポーターズクラブ 運営者:大曲浜サポーターズクラブ事務局(東松島市)
    東松島市矢本の海苔生産者を支援。1口1万円。収穫物は送られないが海苔漁の船に乗ったり現地での交流に参加できる。
vol.2 希望の輪を広げたい

セキュリテ被災地応援ファンドは東京の「ミュージックセキュリティーズ」社が運営しています。もともとインディーズのアーティストをファンがお金を出し合って支えられるようにと、小口出資の仕組みを考えたのが会社を作ったきっかけだったとか。だから「ミュージック」なんですね。同社は2000年の設立後、音楽以外にも日本酒や世界の貧困国の支援となるファンドを運営してきました。
応援ファンドがスタートしたのは、震災直後の2011年4月。被災地がまだ混乱の最中にあり、多くの人が途方に暮れるばかりの時期でした。同社のある役員は「これまでの事業の経験を生かして長期的にかかわっていける。そう思いました」と振り返ります。
わたしはすぐに応援ファンドを知ったのですが、考え方にとても共感しました。ひと口1万円のうち、半分が出資金、半分が寄付金。どんな使われ方をするか分からない義捐金と異なり、応援したい企業に直接お金を出せる。一方で、投資的意味合いは薄く、伴走者として長く企業の再建を見守っていける。「きっとこの仕組みは大勢に受け入れられるだろう」と感じたことを覚えています。
予想通りファンドは多くの人の賛同を得ました。多くの企業が資金を確保し、それぞれ再建に向かって歩みを進めています。その半面、募集を続けている企業やこれからファンドの応援を受けたいと待っている企業がたくさんあります。まだまだ資金は必要ですが、同社は「2年目に入り、出資者の伸びが鈍くなってきている」と打ち明けます。震災のニュースは減り、風化も進んでいます。
応援ファンドは被災地の企業にいち早く希望をくれました。そうして復興に向かう企業は、地域のほかの企業や人々の希望となります。今回取材をさせていただいた仙台市の佐藤さんも、出資がご自身の希望にもなったように感じられました。人と人をつなぐ希望の輪が、これからも大きく広がっていってくれることを願っています。

(鈴木 美智代)

セキュリテ被災地応援ファンド