河北新報特集紙面2012

2012年12月1日 河北新報掲載

被災地視察バスツアーレポート vol.1 わたしたちに今できることは何か 見て 聞いて 考えた。

被災地を訪ねることでわかりあえることがある。

今できることプロジェクトは11月15日、宮城県南の被災地を巡る「被災地視察バスツアー」を実施しました。当プロジェクトの賛同企業にご参加いただき、津波で被害を受けた沿岸部の課題や企業の災害対策状況などを学びました。

【東北リコーBCPセミナー】

震災から学び 事業継続策を強化

東北リコーでは、災害時の対策や震災後の復旧対応を学んだ

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震災では企業活動の停止によって経済がまひし、物資が不足して市民生活にも大きな影響を及ぼしました。そこで関心が高まったのがBCP(事業継続計画)。災害などの緊急事態が発生したときでも事業を中断させない、または速やかに復旧できるよう備える計画です。ツアーでは震災前からBCPを策定していた東北リコー(宮城県柴田町)を訪ねました。
総務室の鈴木薫さんから「東日本大震災に遭遇して~実体験から学んだこと」と題してお話いただきました。鈴木さんは、被害が想定を大きく上回った一方、BCPを基にして早期復旧できた経緯を説明し、「事前の訓練や想定が役立つのは一部。想定外の問題を解く力が必要だが、だからこそ日常の演習が重要」と強調していました。

【亘理町沿岸部】

海産は風評の壁 いちご団地に希望

津波被害を受けた農地ではイチゴ生産団地を造り、復興への足掛かりにしている

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参加者は宮城県亘理町の「浜寿し」で昼食をいただきました。同店は津波の被害に遭って全壊しましたが、全国からの支援を受けて今年4月に移転再開。12月までは名物はらこ飯の旬で、ツアー当日も多くのお客様でにぎわっていました。
その後、沿岸部の被災状況を視察。同町であられづくりを手掛ける「みやぎのあられ」専務の石田亮平さんがガイドを務めてくださいました。原発事故の風評被害で地元の魚が売れず、漁師はがれき撤去などの仕事で日々を過ごしていることや、特産のイチゴ産業の復興に向けて、町による「いちご団地」の造成が進んでいることをお話いただきました。

【水耕栽培の新工場】

被災農地にハウス 後継者づくりに挑戦

水耕栽培の仕組みを見学し、農業再生への展望や課題を聞いた

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名取市では、津波による塩害農地に建設された野菜工場を見学しました。被災した農家の瀬戸誠一さんらが農業法人さんいちファームをつくり、運営しています。
同社は同市植松で津波を被った水田を借り受け、ハウス3棟を建てました。栽培面積は計6000平方メートル。地植えをしないため、塩害農地でもすぐに生産を開始できる水耕栽培という栽培方法により、ホウレンソウやレタス、ハーブなどの葉物野菜を中心に生産しています。水温を一定に保つ設備をそろえ、従業員を雇って徹底した管理を行っています。
瀬戸さんは元会社員。兼業農家だったそうです。もちろん水耕栽培は初めての経験です。資金繰りの難しさや売り先確保の苦労を越えて徐々に支援者を増やし、売り上げを伸ばしています。「安定した収入を得られる仕組みを作り、農業の担い手となる後継者を育てたい」と張り切っていました。

【名取市閖上】

被害集中した地域 再建に多くの課題

荒川市議からは閖上地区の被害状況や復興の様子などを聞いた。現地再建か、内陸移転かで被災住民は揺れている(名取市の日和山)

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名取市議の荒川洋平さんに、津波で大きな被害を受けた同市閖上地区を案内していただきました。同地区は約7100人が住んでいましたが、震災で750人以上が犠牲になりました。同地区出身の荒川さんも母親と弟を亡くし、復興に向けて活動しています。
同市は区画整理による「現地再建」を目指していますが、賛同する住民以外に内陸部での再建や移転を希望する住民もおり、合意形成が難しくなっています。また、被災した同市小塚原地区など区画整理と集団移転の対象から外れている地域もあり、住民が不安を募らせていることも伺いました。
荒川さんは「閖上は今後の街づくりについて住民の意見が割れ、難しい問題を抱えている。地元を離れる若者が後を絶たないが、若い世代に戻ってきてもらえるよう努力したい」と話していました。

参加者の声
リコージャパン(株)東北営業本部 安藤明さん

仕事で復興推進に携わっています。いろいろな方の話を聞いて、貢献したいという思いが沸いてきました。来年1月に仙台で開くセミナーでは震災の経験を踏まえたBCPの取り組みなども紹介します。個人、企業としてできることを考えたい。

住友生命保険相互会社仙台総支社 石井巧さん

復興はスピードが重要だと思っていた。ただ地域再建のように人の気持ちがかかわる問題は合意形成が難しく、時間も必要だと気付かされました。

リコージャパン(株)東北営業本部 石嶺正夫さん

プロジェクトに賛同した企業や団体が一緒に現場を訪れて、説明を聞き、理解を深める。そして、ツアーの最後に感じたことを述べ合う。これはありそうでなかなかないこと。企業として、「今後、更にできること」も考えるキッカケになると思います。

(株)エイチ・アイ・エス東北・北海道事業部 遠藤正巳さん

復興が進んでいると考えていたが、実際はまだまだ時間がかかることが分かりました。会社として、個人としてできることを考えていきたい。

サントリーフーズ(株)東北支社 川田繁樹さん

今回のツアーでいろいろな業種、立場にいる方の生の声を聞くことができました。現場を見て、まだまだ復興は進んでいないと実感します。これから自分自身でできることを考えていきたいと思います。

鈴木工業(株) 佐久間浩光さん

震災当時、会社の対策本部のメンバーとして何もできなかったことを思い出しました。想定外に対しても日ごろの備えが重要だと感じます。被災地の復興については地域でじっくり考えてほしい。自分の活動や仕事で応援できれば、幸せなことだと思います。

(株)エイチ・アイ・エス東北・北海道事業部 島崎裕介さん

自分が中越地震やスマトラ地震を忘れていることに気づき、これが「風化」だとリアルに感じました。一方、マスコミからの情報ではなく、直接聞いたり見たりした話なら記憶や心に残ります。震災のことを忘れず、個人レベルで情報発信し続けたいと思います。

(株)I H I東北支社 末永祐子さん

被災地の現状や被災されても、なお前向きに活動している方々の生の声を聞くことができ、大変貴重な経験でした。お話を伺った方の一言一言がとても重く感じました。速さも必要ですが、じっくり議論し震災前よりもより良い形での復興を進めてほしいです。

サントリーコーポレートビジネス(株) 横澤茂樹さん

いろいろな人の話を生で聞き、あらためて気付かされることが多かったです。企業人として何ができるか、見直す時間になりました。