河北新報特集紙面2012

2012年12月29日 河北新報掲載

被災地視察バスツアーレポート vol.2 わたしたちに今できることは何か 知る 気付く 始める。

被災地を訪ねることでわかりあえることがある。

今できることプロジェクトは12月12日、2回目となる「被災地視察バスツアー」を実施しました。今回は最大の津波被災地・石巻市と女川町を巡り、震災直後の体験や主力の水産業の課題などについて伺いました。

【市職員・支援企業】

最大被災地の石巻 「誇れる復興都市に」

石巻市職員から復興に向けた産学官連携の動きを聞いた。企業が積極的に参画し、街づくりや新エネルギーシステムの構築などに取り組んでいる

ヤフーが設けた復興支援事業の拠点「ヤフー石巻復興ベース」。地元の人も使えるオープンなスペースで、被災地の情報発信や復興支援につながる商品開発などに取り組んでいる

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ツアーには当プロジェクトの賛同企業から10人が参加しました。最初に石巻市の中心部で、石巻市震災復興部の鷹見慶一郎さんから市内の被災状況や「石巻復興協働プロジェクト協議会」について説明を受けました。
同協議会は、産学官の連携により震災からの復興を進める狙いで組織され、日本IBM、石巻市漁協など規模のさまざまな30社が参画しています。新エネルギーを活用した循環型社会の形成や世界最先端のエコタウンの実現を掲げ、市の復興推進計画に反映させていくそうです。鷹見さんは「石巻市は津波で最大の被害を受けた。官民の協力で、世界のモデルとなる復興都市を目指す」と述べました。
続いてインターネットポータルサイト大手のヤフージャパン(東京)が今年7月に石巻市に設けた「ヤフー石巻復興ベース」を訪れ、ネットを通じた被災地の商品販売などについてお聞きしました。復興支援室の須永浩一さんは「復興というキーワードだけで商品が売れる時期は過ぎた。今後は商品そのものや生産者の魅力など付加価値が問われてくる」と指摘していました。

【石巻市内】

復旧・復興進まず 空洞化より深刻に

石巻市・日和山の展望台から。北上川河口付近の旧市街地は復旧が進まず、空洞化がますます進んでいるという

石巻市・日和山の展望台から太平洋側を望む。津波で被害を受けた土地は、がれきが片付いたものの、ほぼ手つかずのまま広がっている

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昼食は石巻市内の「割烹滝川」さんで名物の釜飯をいただきました。同店は大正3年創業の老舗。津波で建物が被害を受け、石巻サンプラザホテルで営業中ですが、来年春をめどに修復し、元の場所で再開する予定だそうです。若女将の阿部由貴子さんは「お客様の喜びと励ましの声で何とか頑張っています」と話していました。
その後、石巻を紹介するホームページ「石巻百景」を運営する日下羊一さんに市内を案内していただきました。沿岸や河口付近の多くの土地で復旧・復興が進まず、空洞化が深刻になっている状況を伺いました。

【水産復興WG代表】

衛生管理とブランド化 「世界水準の漁港を」

山徳平塚水産社長の平塚さんが、石巻の水産業や水産加工業の復旧状況について話した。仲間の有志企業や行政と議論を重ね、産業再生の姿を模索している

石巻市の被災地。廃車の山がいまだに残されていた。壊れた建物の解体作業やがれきの処理もまだ続いている

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山徳平塚水産(石巻市)社長の平塚隆一郎さんに、石巻の主力である水産業・水産加工業の課題や将来構想についてお聞きしました。平塚さんは、100以上の企業で組織する石巻水産復興会議の「将来構想ワーキンググループ(WG)」共同代表を務めています。
WGは50回ほど会合を重ね、水産業の再生について話し合ってきました。2015年を目標とする市の魚市場再建についても多くの意見を提案。徹底した管理体制を敷く「高度衛生管理型」などが計画案に盛り込まれました。 平塚さんは「世界水準の漁港を造り、石巻ブランドの構築を図りたい」と意気込んでいます。

【女川・蒲鉾の「高政」】

町の復興支える 地元企業の気概

高政の高橋さん。地元の女川町は津波で壊滅的な被害を受けた。同社は町の復興へ向けて、同業他社への支援も始めている

参加者は高政の店内でお土産を購入。被災地や被災した企業の商品を買うことが、大きな支援になる

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女川町では、蒲鉾製造の「高政」を訪ねました。取締役社長室長の高橋正樹さんから、地元の復興に向けた同社の取り組みを伺いました。
同町は津波で壊滅的な被害を受け、震災前約1万人だった人口は実質的に6000人台まで減ったとされています。同社も地震の被害で再建に1億8000万円を費やしました。一方で、使わなくなった設備を被災した地元のほかの企業に貸し出したり、女川漁港に水揚げされた魚介類の放射性物質検査を町と共同で行ったりと、町の水産業全体の復興に尽力しています。
高橋さんは「当社の雇用で経済的に支えられる従業員とその家族は、現在の町の人口の1割。流出を食い止め、町を復興させるには他社にも頑張ってもらい、全体で再興しなければいけない」と強調し、「被災地の商品を購入し続けることが復興を支える一番の力になる」と訴えていました。

参加者の声
アサヒビール(株)東北統括本部 金子太郎さん

被災地を見て、復興には長い時間がかかると感じました。支援を継続させていくには、自分の本業や得意分野に沿った形を考えることが必要だと思います。

リコージャパン(株)東北復興推進室 石嶺正夫さん

話を伺った中で、自分の被災にもかかわらず、人を守るために必死で行動した方々がいたことに感銘を受けました。彼らの想いや行動に倣い、できることを考えたい。

三菱地所(株)東北支店 両角大さん

さまざまな課題に対し、具体的な提案や解決策が求められている局面であると感じました。企業として得意分野での支援ができればとあらためて考えています。

明治安田生命保険相互会社仙台支社 小林利也さん

甚大な被害を受けながらも前向きな気持ちを失うことなく地域や事業の再建に取り組んでいる被災地のみなさんに逆にパワーをいただきました。

サントリーコーポレートビジネス(株) 横澤茂樹さん

11月に続き、2回目の参加でした。復旧や復興という意味が、地域によってまったく異なるものだと実感しました。さまざまな生の声を聞く重要性を感じました。

リコージャパン(株)東北営業本部 神馬由美子さん

まだまだ復旧の状態の中で、地元のみなさん、支援する企業の方などから貴重なお話を聞くことができました。企業として、個人として被災地を忘れず、今できることから行動に移していきたい。

(株)東日本大震災事業者再生支援機構 藤村誠さん

被災事業者の支援業務で毎週、石巻市と女川町に通っています。日常業務では分からない考え方や話を伺い、参考になりました。復興へ向けて前向きで強い考えを持った方が一人でも多く現れることを願っています。

(株)IHI東北支社 本木文武さん

普段の業務では接することのない方々に出会い、貴重な話を伺うことができました。企業、個人で貢献できることを考えていきたいと思います。

(株)河北アドセンター 芳賀邦博さん

復興に臨む人、支援する人のお話、震災直後の生々しい体験談を聞き、すべてが心に残りました。仕事で、また個人として何ができるかもう一度考えてみたいと思います。