河北新報特集紙面2016

2016年12月25日 河北新報掲載 互いに心を通わせながら 新たな交流の可能性を求めて

魅力あるまちづくりを着々と推し進めている女川町。
そんな未来に向かって高鳴る脈動を、熊本地震で被災した商店街を支える3人は肌で感じ、
今度は熊本で女川復興の担い手たちを迎えてくれました。
遠く離れた2つの地が力強く手を結び合い、互いの復興を後押しする交流のアイデアを探りました。

11月21日・22日の2日間、
熊本県熊本市から地元商店街復興に携わる若手3人が女川町を訪れ、
新しいまちづくりに関わったキーパーソン4名と対面。
女川と熊本の交流の可能性を話し合い、復興状況の視察を行いました。
熊本地域商業リーダーたちと意見交換を行い、具体的な交流の方法や今後の課題などを語り合いました。

熊本の経済を支える商店街のリーダーたちと女川メンバーが対面
 12月6日、女川町の4人は熊本県熊本市の中心地に降り立ちました。一行が向かったのは、「くまもと県民交流館パレア」。10階会議室では、熊本県商工観光労働部と熊本市経済観光局産業部金融課の職員、熊本商工会議所と市内各商店街の関係者、八代市・天草市・人吉市の商店街関係者ら、総勢36名が温かく出迎えてくれました。そして、人間都市研究所の冨士川一裕さんを司会に、先日女川を訪れた熊本市新天街商店街振興組合の桑本知明さん、上通1・2丁目商店街振興組合の森岡大志さん、熊本市新市街商店街振興組合の安田征司さんの3人に熊本大学准教授で地方創生に取り組む田中尚人さんを加え、パネリスト8名による被災地交流シンポジウムがスタートしました。


多くの熊本地域商業リーダーたちが集まった会場

 それぞれ自己紹介をした後、女川町商工会の青山貴博さんが「巨大津波を受けた町の復興への挑戦」と題した、これまでの復興の歩みを説明。若い世代を中心とした活動を後押しするため、年長者が自ら語り、キャッチフレーズとなった「還暦以上は口出すな」に言及すると、会場から笑いが。マルサンの高橋敏浩さんも、震災直後にヘルメットの注文を受け、仕事の喜びを得たエピソードを語り、まちを支える商店の気概や経営基盤の安定が大切であることを指摘しました。復幸まちづくり女川合同会社の阿部喜英さんは、水産加工品ブランド「あがいん、おながわ」を立ち上げた経緯を紹介。さらに、「水産業体験プログラムを模索するなかで、魚市場で魚の水揚げを見ることが大変喜ばれました。私たちが当たり前だと見過ごしているものにニーズが秘められていることを学びました」と話すと、会場の多くが深くうなずきました。
 後半は、会場の参加者も含めたワークショップを実施。全員で具体的な交流のアイデアを出し合いました。みなとまちセラミカ工房の阿部鳴美さんは、「いきなり大きなイベントを執り行おうとしても難しいので、まずは、小さな個の交流から始めてみては」と提案。桑本さんも、「女川町に友達がいたら、私はみかんを送るつもりです。それは、熊本に有って、女川に無いもの。今後、お互いの知識を深めていき、何が有効かを考えていきたいですね」と話してくれました。


右上:震災後、女川町商工会が行った主な活動を紹介する青山さん / 左上:冨士川さんは、ホワイトボードでまとめながらトークをリード / 右下:コンテナ村商店街からの再スタートを語る高橋さん / 左下:安田さんは、震災の記憶の風化を防ぐため、防災知識の共有を提案

復興の未来を語り合い女川と熊本をつなぐホットラインが誕生
 次の日は、熊本県内の被災地を視察。まずは阿蘇市の「阿蘇神社」へ向かいました。境内に足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは倒壊した楼門と拝殿。現在、復旧工事が進捗中ですが、その被害の大きさに一同は深いため息をつきました。豊富な湧き水に恵まれた歴史的な街並みが美しい門前町商店街を、「阿蘇一の宮門前町商店街若きゃもん会」代表の杉本真也さんのガイドで散策。商店の2代目が中心となって、大型店の進出や震災で客足の途絶えた地元商店街を、再び盛り上げるための取り組みを学びました。
 道路や家屋などの被害が甚大だった益城町も、バスの車窓から見学。8カ月経った現在も、崩れ落ちた屋根瓦や散らばる建材、ゆがんだ建物の駆体などをいくつも目にし、さらなる支援の必要性を確かめました。熊本市内に戻り、こちらも復旧が待たれる熊本城を望むレストランで、昼食と最後のミーティング。和気あいあいとした雰囲気のなか、今回のシンポジウムや熊本視察の感想を語り合い、さらなる親睦を深めました。青山さんや阿部鳴美さんから人的交流を図るツーリズム案が飛び出すなど、トークは白熱。明るい前途を予感させる、充実した内容となりました。
 この女川と熊本の出合いは、震災被害の経験を共有しながら、ともに目指すべき復興の方向性を見出す貴重な機会となりました。今後、どんな人や物の交流が生まれるか、期待が高まります。


熊本市役所14階展望所から熊本城を見学


宮門前町商店街「若きゃもん会」の活動紹介

女川町商工会 副参事 経営指導員
青山貴博さん
単なる見た目だけの交流ではなく、それぞれの地元事業者が生活の糧を得られるしっかりとした経済基盤を確立できるようになることが肝心です。そのための人と物の行き来ができればと考えています。
復幸まちづくり女川合同会社 代表社員
阿部喜英さん
「シーパルピア女川」は、次の世代を考え、テナントの入れ替えが容易な“変化しやすい”仕組みを取り入れました。何か新しいことを始めるにあたっては、若い力を取り込むことが大切だと感じています。
NPO法人 みなとまちセラミカ工房 代表
阿部鳴美さん
女川と熊本それぞれの個人事業者同士の縁結びを促し、お互いを知るきっかけづくりを行いながら、相手のお店の魅力発信などができるといいですね。そして、その輪を少しずつ広げていければと願っています。
有限会社マルサン 代表取締役
高橋敏浩さん
震災後、在庫を持たない、リスクの無い商売に移行しました。そして、自分が好きなデザインの衣料も手がけるようになり、新しいニーズを獲得しています。そのノウハウを共有できればと思っています。
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