河北新報特集紙面2017

2017年12月24日 防災の未来に希望を託し、仙台から世界へ。

防災の未来に希望を託し、仙台から世界へ。

 国内外から防災関係者が集結し、4日間をかけて開催された第1回「世界防災フォーラム」。これに先立ち、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催するサイエンスアゴラと連携した、本プロジェクト協賛企画プログラム「世界防災フォーラム前日祭〜災害に学び、未来をつなぐ〜」が、11月25日に東北大学百周年記念会館川内萩ホールで行われました。会場には国際色豊かな約700人の参加者が集まり、ともに防災の意識を高める貴重な機会となりました。

第1部
青少年からのメッセージ

 まずは、世界防災フォーラム実行委員長であり、東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦氏の講演からスタート。「東日本大震災から6年 −教訓を未来へ−」と題し、震災発生からこれまでの宮古市田老地区や仙台市荒浜地区などの変遷を紹介しながら、「この大震災を過去のものとせず、将来も起きうる災害であると真摯に向き合い、記憶し続けることが求められています。そして、他の地域と連携・協力しながら、ともに未来へつないでいくことが大切です」と結びました。

 そして、岩手・宮城・福島の被災3県の若者が、それぞれ実践している防災の取り組みを発表するために、ステージに登壇しました。

 続いて、大阪市立大学都市防災教育研究センター研究員の吉田大介氏がスマートフォンやタブレットPCなどを活用して地域防災へ役立てる取り組みを説明。高知県黒潮町の大西勝也町長も登壇し、「南海トラフ巨大地震といかに向き合うか〜想定津波高全国一の町の取り組み〜」と題した特別講演を行いました。

 さらに、東北大学の佐藤健教授と大阪市立大学の森一彦教授もコメンテーターとして加わり、ディスカッションがスタート。防災啓発の活動を継続して広めていくための疑問や今後の課題について話し合いました。佐藤教授は、震災以後に携わっている研究活動に触れながら、「皆さんの発表を聞いて、とても感心しました。防災に関する意識を向上させる鍵は、子どもたちだと思うんですね。分かりやすいコミュニティー防災教室を行うなど、全国の幅広い世代まで届ける仕組みが重要だと考えています。ぜひ、今後とも活躍いただければと思います」と感想を述べました。

 なお、第1部の様子は、当日JSTが東京で開催していたサイエンスアゴラ2017の会場にライブ配信されました。

写真 写真
世界防災フォーラム実行委員長の今村文彦氏 お互いに質問を投げかけながら議論を深めていったディスカッション

岩手県立大槌高等学校

大槌復興研究会『定点観測班』

大槌復興研究会では6つの柱で活動を展開しており、今回、発表を行ったのは、大槌町内の約180地点で撮影を行い、写真で復興の歩みを記録している定点観測班の3人。2013年7月から、神戸大学大学院の先生や院生の指導を受け活動を行い、その枚数は2500を超えます。メンバーの倉澤杏奈さんは、「更地になった町の復興には、とても時間がかかります。私たちの先輩も、変化のない写真を2年撮り続けました。その悲惨な状況と、そこからの復興の過程を継承していきたいです」と今後の意気込みを話してくれました。


岩手県立大学災害支援ボランティア団体

オモイをカタチに〜大学生による災害支援の取り組み〜

岩手県立大学の川原直也さんは、全国200以上の大学で延べ1万6000人以上の学生ボランティアを組織し、東北だけでなく熊本地震で大きな被害を受けた熊本県でも活動を続けてきた実績を紹介。岩手県住田町の公民館を滞在拠点にして、「いわてGINGA-NETプロジェクト」を運営し、多彩な支援活動に取り組みました。今後も、「関わった学生たちには、これで終わりというわけではなく、岩手での経験を持ち帰り、自分の大学や地域で何ができるのかを考え、大災害に備える必要性を伝え続けていきます」と話してくれました。


宮城県「女川1000年後のいのちを守る会」

1000年後の命を守るために

壊滅的な被害を受けた女川町。それでも、震災の約1カ月後には、女川町立第一中学校(現在は第二中学校と併合して女川町立女川中学校)で、67人の入学式が行われました。その新入生の中にいた鈴木元哉さんと渡邊滉大さん。彼らを含む女川中のメンバーで結成した「女川1000年後のいのちを守る会」の活動について発表しました。たくさんの支援に感謝しながら、「いのちの石碑」設置や、中学生版「いのちの教科書」作りを実践。今後は、小学生版の編集を行うなど、精力的に活動を継続していく展望や夢を教えてくれました。


福島県立福島高等学校スーパーサイエンスハイスクール

福島高校スーパーサイエンス部放射線班の活動

東京電力福島第1原発の事故が、いまだ深刻な影を落とす福島県。2011年5月に、福島高校スーパーサイエンス部の生徒が校内の放射線量を測定し、独自にマップを作成したことを機に放射線班が結成されました。15年からは毎年夏、フランスの高校生を招き、放射線防護をテーマに学ぶワークショップを開催。見城花菜子さんは、「海外の福島に対するイメージは、事故直後のまま。これからは、より調査を重ねていき、福島の放射線量についてわかりやすく伝え、理解を促していきたいと思っています」と語りました。

第2部
SENDAI BOSAI 文化祭

 第2部は、躍動感あふれるお囃子のリズムで幕を開けました。気仙沼市に伝わる伝統芸能「浪板虎舞」は、浪板地区に居住する全戸が構成員となり継承。保存会メンバーに震災の犠牲者が出ながらも、集落が分散することなく地域一体となって活動を継続してきました。笛と太鼓が奏でる「打ち囃子」に合わせて虎バカシ(先導役)」と「虎(3人立ち)」がステージに現れ、高いはしごの上で首を振り上げると、会場から盛大な拍手が。さらに、客席まで降り、参加者の頭をかんで福を呼ぶ所作で湧かせました。

 震災のわずか15日後から「復興コンサート」の活動を開始し、これまで被災地に音楽を届ける活動を続けてきた仙台フィルメンバーの4人も登場し、モーツァルト作曲「フルート四重奏第1番」など3曲を披露しました。続き、NHK 仙台少年少女合唱隊が、天使の歌声で会場を魅了。仙台フィルメンバーと合唱隊の共演も行い、参加者を巻き込んだ「花は咲く」の大合唱で感動のフィナーレを迎えました。

派手な所作ごとに拍手と歓声で賑わった浪板虎舞の演技 美しい管弦楽の旋律で心和ませてくれた仙台フィルメンバー NHK 仙台少年少女合唱隊の美しい歌声で涙する参加者も

地元で防災の学びを実践している多賀城高等学校災害科学科の生徒も来場

2年 石川 智也さん

黒潮町・大西町長の特別講演で、ワークショップによって町民それぞれに自分たちの命をしっかりと守る意識付けを行っているという取り組みに関心を持ちました。また、「地域のコミュニティーが防災にどうして大切なのか、うわべだけで捉えず物事の本質を突き詰めて考える必要がある」という発言も印象的で、改めて防災を学ぶ難しさを感じました。

2年 佐藤 美羽さん

普段の授業では、大学の先生など大人の方から話を聞くことが多いのですが、前日祭では年の近い世代が実際に取り組んでいる活動に触れることができて、とても新鮮に感じました。特に、福島高校スーパーサイエンス部の放射線班の発表は、私が課題研究として取り組んでいる放射線の風評被害についてリンクしていたので、とても参考になりました。

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