|
|
焦点/心の障害、足りぬ支援/仙台
 | 毛布が敷かれた男性の乗用車。4月以降、ここで寝泊まりする日々が続いている=仙台市 |
|
東日本大震災後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や統合失調症、うつなど、心に障害がある人への支援不足が課題として浮上している。心の病などを抱えて避難所や仮設住宅に入れない被災者や、自宅にとどまり続けた人にきめ細かな対応が行き届かない。関係者は制度や態勢の整備を求めている。(若林雅人、高橋鉄男)
◎PTSD、自宅出て車中泊5ヵ月/法の枠外、仮設住めず
<転居できず自殺> 仙台市青葉区の大河内潤一さん(50)は6月下旬、知人の無職男性(51)が、青葉区の賃貸アパートの自宅で自殺したことを知った。男性は統合失調症を患っていた。 「地震で部屋が壊れたが、なかなか引っ越せない」。男性は震災直後から転居を望んでいたが、収入がない上、義援金も支給されず、自宅にとどまっていた。 男性は病気で他人とうまくコミュニケーションが取れなかったため、避難所にも入らず、行政機関への相談にも及び腰だった。「とにかく会おう」。大河内さんが繰り返し呼び掛けても応じず、5月下旬以降、電話がつながらなくなった。 大河内さん自身、2年ほど前にうつと、日中に過度の眠気が生じる「ナルコレプシー」と診断されて仕事を辞めた。震災で借家が全壊。知人らから借金して今のアパートに移り、1人で暮らす。 8月になってようやく、大河内さんのもとに義援金が届いた。滞納していた家賃や電話料金を支払い、家電などの生活用品を買った。亡くなった男性が「お金さえあれば引っ越せる」と話していたのを思い出し、やりきれない気持ちになった。 大河内さんは「避難所にいれば行政の目も届くが、さまざまな事情で避難所に入れない人、外出すらできない人もいる。1人で問題を抱え込み、支援の隅に追いやられた人たちに目を向けてほしい」と切実に訴える。
<怖くて戻れない> 仙台市宮城野区の商業施設。駐車場に止めた乗用車に、毛布が積まれている。医師から震災によるPTSDと診断された仙台市の男性(71)は、車中で寝泊まりして約5カ月になる。 マンション7階の自宅で被災。自宅にいると動悸(どうき)や震えが止まらず、戻れずにいる。 被災自治体に適用された災害救助法で、男性が災害救助の「対象」になれば、仮設住宅や民間の借り上げ住宅への入居が可能になるが、厚生労働省は仙台市の問い合わせに「男性は救助法の対象外」と回答。市は定期的に男性と連絡を取っているものの、「救助法の対象外では仮設住宅の供与は難しい」との考えだ。 厚労省社会・擁護局の担当者は河北新報社の取材に「男性は自宅が無事だ。被災地の医療機関も正常化しており、通常の治療を受ければいいのではないか」と語った。 宮城野区はこれまで、男性に避難所への宿泊を「緊急措置」として数日間だけ許可した。男性は区からNPO法人の宿泊施設などへの入居を提案されたが、条件が折り合わなかった。 8月上旬に3日間、自宅で寝てみたが、やはり症状が出て諦めた。男性は「通常の生活が営めないのに、どう治療すればいいのか。ただの心の病とされてしまえば、今後の災害でも多くのPTSD患者が困り果てる」と憤る。 学識経験者らでつくる東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター(青葉区)によると、仙台市内の20代女性も自宅に戻れず、長期間、車中泊をしていたという。 「心に障害を抱えた被災者はいまだに震災の苦しみの真っただ中にいる」。センターの支援担当者は、国や行政の支援不足に怒りをにじませる。
◎「救助対象に加えて」/専門家、惨事ストレス放置危惧
東日本大震災後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩み、車中泊を続けている仙台市の男性(71)を支援してきた仙台弁護士会は8月26日、提言を発表した。震災による精神疾患を原因とした自宅帰宅困難者に対し、「災害救助法」に基づき、国や行政が仮設住宅などの居住場所を供与するよう求める内容だ。 災害救助法は災害救助の前提となる「被害」について、住家の被害と人的被害(死亡・行方不明・負傷)のみを挙げている。精神的被害は盛り込まれておらず、精神疾患患者は救助法の網から漏れてしまっている。 仙台弁護士会災害対策本部の野呂圭事務局次長は「男性の避難所入所を認めないなど、市は車中生活を強いる対応をした。震災による精神疾患患者も救助対象に加えてほしい」と強調する。 災害や凄惨(せいさん)な現場を経験した精神的なダメージは「惨事ストレス」と呼ばれる。放置すれば、うつやアルコール依存、PTSDなどになる恐れがある。 特にPTSDは、1995年の阪神大震災や地下鉄サリン事件をきっかけに注目を集め、国は同年改定した「防災基本計画」で、心のケアを災害対策時に取り組むべき活動と明記した。 2004年の新潟県中越地震では幅広い精神保健活動が展開され、大規模災害時の心のケアは大きな進展をみせている。 東日本大震災の被災地でも、臨床心理士や保健師による心のケアが活発だが、活動は「被災者のストレスを和らげる」「発症者を見つけた時に病院につなぐ」ことが、柱となっている。 精神疾患を発症した患者に対しては、自宅全壊など物理的な被害を受けた被災者と同じような支援策が、見当たらないのが現状だ。 いわき明星大の窪田文子教授(臨床心理学)は「惨事ストレスの原因が自宅で起きた場合、その人が自宅で暮らせなくなるケースは十分起こりうる」と指摘。「被災地の精神保健活動は、避難所や仮設住宅などの大多数向けが中心で、きめの細かいセーフティーネットがあるとは言い難い。こうしたケースが震災で起きることも想定し、何らかの支援制度を整える必要がある」と話している。
2011年09月05日月曜日
|