<原発避難訴訟>国・東電の主張一蹴

 「東京電力は2008年に巨大津波を予見していた」−。福島第1原発事故の責任追及で最大の焦点だった予見可能性について、前橋地裁が画期的な判決を言い渡した。甚大な被害をもたらす原発事故の特性を踏まえ、最大限の安全対策が必要だったとする司法判断。全国の避難者訴訟や強制起訴された旧経営陣らの刑事裁判の行方に影響する可能性もある。主張を一蹴された東電や国の衝撃は計り知れない。

■動揺隠しきれず
 判決言い渡しのあった17日午後3時、広瀬直己・東電社長は経団連会館で経営状況についての記者会見中。速報が流れると会場の空気は一変した。「判決文をしっかり読んで…」と広瀬氏。動揺は隠しようもなかった。
 史上最悪の原発事故を巡る同種訴訟は全国で約30件。刑事や他の民事訴訟でも責任追及が進む。いずれも争点の核心は津波の予見可能性だ。「可能かどうか」を飛び越え「実際に予見していた」とする判決は想定外の内容だったようだ。
 衝撃は電力業界全体に広がった。より高い安全性を求める世論の高まりは各地の原発再稼働の行方に影響するからだ。ある電力会社の関係者は「十分な安全対策はしている」と従来の立場を繰り返すばかりだった。
 かつて原発設置許可や運転差し止めに関する訴訟で住民側の請求を次々と退けてきた司法。だが事故発生後は、福井、大津地裁が相次いで差し止めを命じるなど、「万が一の事態にも備えるべきだ」との立場を取る判断も出始めていた。福島原発告訴団の河合弘之弁護士は「今回の判決の事実認定は刑事裁判にも影響するはず」と勢いづく。

■予想外の「賠償」 
 電力会社と一体で原発事業を進めてきた国の責任。判決はもう一つの重要な争点についても大きく踏み込んだ。賠償命令までは予想しなかったのか、経済産業省が「今後、関係省庁と協議したい」とコメントしたのは判決の約2時間後だった。
 国策である原子力事業の関連法制は複雑で、原発事故の責任の所在は分かりにくい。事故の際の対応を定めた原子力損害賠償法にも、電力会社が賠償をして国が必要費用を援助する独特の規定がある。訴訟で国側は、規制権限の存在さえも否定していた。
 だが判決はこの主張を退け「07年8月には東電の自発的対応や、口頭指示では適切な対策を期待するのは困難と認識していた」と指摘。この時点で対策を命じれば事故は防げたと言い切った。
 事故の責任は主に事業者にあり国の責任を認めるハードルは高いというのが裁判の「相場」だが、今回の判決は国と東電に同等の責任を認めた。東洋大の大坂恵里教授(民法)は「ひとたび原発事故が起きれば甚大な被害が出る点を重く見た画期的な判断だ」と高く評価している。

■独自の基準示す 
 事故から6年。福島県内外では今も7万7千人が避難を続ける。ほぼ唯一の支援だった住宅の無償提供が今月末で打ち切られる自主避難者の生活は特に厳しさを増す。国が賠償基準を定めた「中間指針」をかたくなに守ろうとする東電の姿勢には批判が強い。
 今回の判決は既存の補償枠組みにとらわれず「ふるさとの喪失」「転校」「将来への不安」など、多様な苦しみに目を向けた独自の基準を示し、原告それぞれの慰謝料を算定した。福島原発被害首都圏弁護団の中川素充弁護士は「責任の認定は第一歩だ。今後の裁判を通じて被災者救済策の根本的な見直しを求めていく」と補償の充実に意欲を見せた。


2017年03月18日土曜日


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