<丸森再耕 原発事故を超えて>甲状腺検査 国支援なし

敷地内に手作りしたターザンロープで遊ぶ菊地さん一家。近くの県境を挟み、行政の対応は大きく違った=丸森町筆甫川平

 東京電力福島第1原発事故による放射能汚染被害を受けた宮城県丸森町。最も不安視されたのが子どもの健康への影響だ。しかし、健康調査などで隣接する福島県と「格差」が生じ、住民の不安を一層強めた。少子化に拍車を掛けた原発事故を超え、町はいま子育て支援に力を注ぐ。子どもを守る町の取り組みを見詰めた。(角田支局・会田正宣)

◎子どもを守る(上)県境格差

 福島県に食い込むように突き出た丸森町筆甫川平地区。「県境って何なんだ」。相馬市との境から約800メートルに住む林業菊地雄介さん(31)は疑念を抱く。2011年3月の原発事故で、県境の大きな壁を感じた。
 原子炉建屋の相次ぐ水素爆発。「福島県内の避難指示地域が近づいてきて、次は川平だと思ったのに対策は何もない。ショックだった」。雄介さんは振り返る。

<「不安強かった」>
 当時、妻友紀子さん(28)は長女梨心(りこ)ちゃん(5)を妊娠していた。長男の瀧太(そうた)君(8)は1歳6カ月。避難を急がなくていいのか気をもんだが、事故対応は行政区分で分かれた。
 3月14日、「いよいよ、まずい」と埼玉県の親類宅に自主避難した。友紀子さんは「おなかの子のことが一番心配だった。放射能について全く分からず、不安が強かった」と表情を曇らせる。
 4月下旬、雄介さんの仕事の都合で一家は角田市に戻った。丸森町中心部への移転を経て、川平の自宅に帰ったのは15年5月。
 雄介さんは「子どものことを考えると川平に帰るつもりはなかった」と本音を漏らす。自宅で祖父を介護するための決断だった。
 今は、川平で生まれた1歳5カ月の次女菜桜(なお)ちゃん、父哲男(63)さんと6人、にぎやかに暮らす。
 ただ、子どもたちの土いじりなどには気を使う日々だ。友紀子さんは「放射能の不安は一生つきまとう。丸森でも福島でも健康被害が出てほしくない」と願う。

<町が独自に実施>
 雄介さんや友紀子さんが心配する放射能の子どもへの影響。見極めとなる甲状腺検査を巡る支援も県境格差が際立った。福島県の検査は国庫負担で行われ、見つかった甲状腺がんの治療費も全額補助される。
 雄介さんら丸森町内の保護者は福島と同等の検査を求めた。町も国や県に要望したが、国の支援はない。県は筆甫、耕野両地区の小学生以下に限って1度確認検査をしただけだ。
 町が独自に全町の健康検査を始めたのは原発事故から1年後のこと。保科郷雄町長(67)は「第一に国の責任で検査すべきだと要望活動を優先した。福島並みの対応が行われなかったことは大変不満で残念だ」と漏らす。
 「町には国や県の指示を待たずに取り組んでほしかった」と雄介さん。「線引きは必要だが、放射線量で考えるべきだ。県境が基準というのは納得いかない」と訴える。
 原発事故から6年半。県境で線引きされた町民は、疑問を拭えないままだ。

<原発事故を巡る県境格差>福島県の甲状腺検査は2011年10月に開始、現在3回目を実施中。対象は当時18歳以下だった約38万2000人。全額国庫による基金でまかなわれる。除染については、福島県で行われた高圧洗浄や表土のはぎ取りが丸森町では認められなかった。筆甫川平地区だけ「丁寧な除染」という表現で再除染が実施された。


2017年09月07日木曜日


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