<読者と考える紙面>地域と共に 企業へ喚起

連載「トモノミクス」と「東北の道しるべ」を巡り、意見を交わした紙面委員会
須藤力氏(すどう・つとむ)
榊原進氏
成田由加里氏

 河北新報社は1日、第41回「読者と考える紙面委員会」を仙台市青葉区の本社で開いた。長期連載「トモノミクス 被災地と企業」が探る、東日本大震災後に芽生えた復興CSR(企業の社会的責任)と経済社会の将来、1月17日の本紙創刊記念日に発表した東北の未来像を提案する「東北の道しるべ」を主題に設定。仙台弁護士会の須藤力弁護士、NPO法人都市デザインワークス(仙台市)の榊原進代表理事、公認会計士の成田由加里東北大会計大学院教授の3委員が議論した。(司会は河北新報社取締役編集局長・鈴木素雄)

◎トモノミクス

支え合いCSRの姿 須藤委員
悩みや壁取り上げて 榊原委員
震災で志を思い出す 成田委員

 −震災後、多くの企業が復興支援に取り組みました。連載では「被災地と企業」に焦点を当てます。トモノミクスは造語で「友」「共」「伴」の意味を込めました。テーマの妥当性や可能性をどう考えますか。
 榊原 企業はポスト復興をリードしていく担い手だ。テーマ設定は、むしろ遅すぎたくらいかもしれない。企業と地域、市民は街づくりの両輪。地域と共に歩むという点を企業側に意識してもらうためにも積極的に展開してほしい。明確な解はないだろうが、探り続けてほしい。

 須藤 被災地と企業のCSRという切り口は新鮮な感じがした。(ポケモンGOなどを取り上げた)プロローグを読んだ時点では、どこを目指すのか気になった。CSRについて読者の理解は広まっていない。第2部の最後にCSR特集があったが、もっと早く掲載してもよかった。
 成田 ポスト資本主義といった言葉が登場するが「トモノミクス」のタイトルはひと言で射抜いた。CSRを考えなければならないのは、上場企業なのか地元の中小企業なのか。企業の属性で分けて整理する必要がある。読み手にもそれぞれの役割がすんなりと伝わるのではないか。

 −CSRをより広く、深く理解し、企業が復興に果たす役割の大きさを知ってもらうために、どのような視点が必要でしょうか。
 須藤 第1部の宮城県女川町のかまぼこ製造の高政の記事に感銘を受けた。同じ立場に立ち、ライバルでありながら支え合う姿はまさに企業の社会的責任だ。もうけではない、典型的なCSRの姿と言えるのではないか。そういう観点をもっと示してほしい。
 成田 長く商売をしてきた会社には必ずCSR的な要素がある。震災が志や倫理、哲学的なものを思い出させ、震災直後の企業行動につながった。公害に関しては高度経済成長期、環境保全のコストを誰が負担するのかの議論がないまま利潤を追求した。企業は社会的コストをどこまで負担すべきか考えてほしい。
 榊原 復興の現場で「自分たちに何ができるか」と試行錯誤する人たちがいた。現場に行けと言われた社員はさまざまなジレンマを抱えた。地域と会社の板挟み。多くの社員は個人の使命感で来ている。個人の血の通った悩みを取り上げるのが必要と思った。

 −CSRを重視する会社は増えています。CSRの観点から企業と市民の意識変革を促すにはどのような動機付けが必要でしょう。
 成田 CSRの意識は大企業と地元の中小企業では違う。大企業は経済合理性からCSRをした方が得な場合がある。例えば障害者の雇用。障害者に働いてもらうと、広告効果が高くなる。一方、地場の企業は世間なしに商売が成り立たない。元々、CSRが商売と一体化している。
 榊原 多くの地元企業はポスト復興への危機感を持っている。地域が元気にならないと企業は存在し得ない。CSRで新しい価値を生み出さなければ、という意識を企業に植え付けることが必要。具体的に何ができるか。連載で考えるきっかけを与えてほしい。海外の事例も知りたい。
 須藤 CSRは社会的、対外的に何かをするだけではない。法令順守や企業統治、従業員の労働環境、他社との公正競争も含まれる。大企業、地元企業を問わず、どう商売し、どう地域と接するか意識しなければならない時代。法律上はセーフでも社会や地域、客にとっていいのかという観点で考える必要がある。

 −トモノミクスは人間の顔をした資本主義をどう築くかというところに着地点を求め、成長第一の経済の在り方に対峙(たいじ)した概念を探ります。今後の連載の方向性をどう考えますか。
 成田 資本主義の先にあるものは皆が模索している。被災地にいると、株価の上げ下げが生活にどう影響するのかと疑問に感じる。成長することが本当に必要かという切り口は面白い。目に見えない物への投資をもっと考えなければいけないのではないか。
 須藤 企業はCSRを当然としつつ、商売というシビアな問題を抱える。一番重要なのは信頼。物を売る会社が客との関係で不誠実なことをすれば即刻つぶれる。客の立場で商売を日々考えていくこと。それが信頼を得ることになり、利益につながる。
 榊原 公益資本主義という言葉がある。資本主義が地域課題などに貢献することが経済成長につながるという考え方だと思う。一方、CSRの壁や陰の部分も取り上げてほしい。暮らしの中の商品やサービスを見て、その背景にある理念やCSRを知れば市民の当事者意識が生まれる。


◎東北の道しるべ

まとめ読みできれば 須藤委員
先を見据えた提案を 榊原委員
研究機関集積が必要 成田委員

 −「東北の道しるべ」は、未来の子どもたちに残したい東北像を6項目に整理して提案しました。発表に先立ち、東北や全国の新しい動きを連載「道しるべ探して とうほく共創」で紹介しました。ご感想をお聞かせください。
 榊原 連載は各部の最後に専門家のインタビューが付く構成で、全体を理解する助けになった。6項目の「道しるべ」に共感する読者は多いだろうが、一歩を踏み出せるかとなると難しい部分もありそうだ。一方で既に動きだしている項目も多く、先を見据えた提案が必要だった。

 須藤 一瞬「上から目線」の記事なのかと思ったのだが、実際には提案の一つ一つが「なるほど」と思わせる内容だった。
 連載は読み応え十分だった。連載企画は、読者にまとめて読み返してもらうための工夫が必要ではないか。河北新報のホームページにまとめて掲載されているのだから、日々の紙面に「ここを見れば過去の記事が読める」という案内があれば、読者をいざなえる。

 成田 「道しるべ」が提案する暮らしは長続きするのか、本当に豊かなのかという疑問が浮かんだ。特集面の仮想小説で描かれた伝統産業と最先端技術の融合は面白く読めた。東北に最先端の研究機関が集積し、世界中から研究者が集まる環境が求められているのではないか。

<須藤力氏(すどう・つとむ)> 弁護士。1956年青森市生まれ。中央大法学部卒。83年に弁護士登録。99年度仙台弁護士会副会長、2000〜03年東北弁護士会連合会代表幹事、04年に法務省の法制審議会幹事。09年12月から宮城県収用委員会委員、11年7月から同委員会会長代理。

<榊原進氏(さかきばら・すすむ)> NPO法人都市デザインワークス(仙台市)代表理事。1974年静岡県生まれ。東北大大学院工学研究科博士課程前期修了。2002年から現職。市民主体のまちづくりを実践。14年から一般社団法人荒井タウンマネジメント(仙台市)理事を兼務。

<成田由加里氏(なりた・ゆかり)> 東北大会計大学院教授。1964年東京都生まれ。慶大商学部卒。2010年から現職。仙台市で公認会計士事務所と税理士法人を経営。宮城県監査委員、金融庁公認会計士試験委員、NPOの会計税務を支援するNPO法人の理事も務める。


2017年02月09日木曜日


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