<富士通>在宅医療の未来開く

在宅医療の患者(右から2人目)を往診する祐ホームクリニック石巻の医師と看護師ら。富士通のクラウド技術を活用し、往診の量と質が確保される=石巻市

 震災はCSR(企業の社会的責任)に新たな視座をもたらした。主役は自らの社会的存在に覚醒した企業。地域や消費者との共存を探る姿があった。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[16]第3部 覚醒(3)いかす

 ICT(情報通信技術)と在宅医療が、東日本大震災の被災地で出合った。
 1人の患者を巡る医療・介護従事者のやりとり。
 ヘルパー「薬がなくなります。服用が適切でないようです」
 医師「あす診察します」
 薬剤師「薬を届け、服薬指導しました」
 血圧など体調に関する患者情報を専用ソフトに打ち込むと、瞬時に情報が共有される。医療と介護の現場で稼働するシステムは、移動中の医師のカルテ作成支援や夜間・休日の相談受け付けサービスを網羅。職種の壁を越えた連携を容易にし、患者と向き合う時間を最大化した。
 先駆的な技術が今、石巻市の在宅ケアを支える。インターネット上でデータを管理し情報共有できるクラウドシステムを活用し、富士通が開発した。

 イノベーション(技術革新)の芽は、震災直後の混沌(こんとん)の中にあった。
 「有事こそクラウドの出番だ」。震災発生時、川崎市の自宅にいた同社のシステムエンジニア生川(なるかわ)慎二さん(47)は直感した。クラウドなら、インターネットに接続できれば設備が被災しても使える。情報管理の強力な武器になる。
 企画書を作り上げ、震災から4日後、経営陣直轄の支援チームが発足した。生川さんは仙台に飛んだ。
 自治体や避難所は混乱の極みだった。情報の整理が必要だ−。生川さんのチームは、宮城県内約470カ所の避難所の状況を集約するクラウドシステムを無償で構築。省庁や自衛隊も共有した。
 データを通し、最大被災地、石巻市の深刻な医療実態が浮かび上がってきた。
 生川さんは知人の医師に窮状を伝えた。東京で在宅医療に取り組む武藤真祐(しんすけ)さん(45)。武藤さんは震災前、高齢社会の包括サービスを考える団体を設立し、生川さんも参加していた。
 震災から約2カ月後、武藤さんは石巻に入る。被災を免れた病院は全て満床で、高齢者は行き場を失っていた。在宅医療の必要性が高まると確信した。

 「超高齢化社会を迎える2030年の日本が突如、石巻に出現した。医療と介護、生活支援を結び付けたモデルをつくらなければ」
 武藤さんは11年9月、「祐(ゆう)ホームクリニック石巻」を開院した。生川さんは会社に掛け合い、3年間、石巻市に住み、武藤さんを支援した。2人はクラウドを活用した医療・介護の新たな仕組みを作り上げる。
 富士通は13年1月、被災地で構築されたシステムを「高齢者ケアクラウド」として商品化した。
 「社会貢献をするために来たのではない。目指したのはビジネスを通して社会課題を解決すること」。生川さんは言い切る。
 被災地を見詰め、生み出された近未来の処方箋。被災者と医療、企業がそれぞれの「利益」を伴いながら安心の社会を育んでいく。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年02月16日木曜日


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