<PwCコンサルティング>官民の風土にくさび

「ふるさと創造学」の発表会を振り返る福島県双葉郡の教員研修。東京から駆け付けた赤司さん(中央)が教員たちと語り合う=1月17日、郡山市

 震災はCSR(企業の社会的責任)に新たな視座をもたらした。主役は自らの社会的存在に覚醒した企業。地域や消費者との共存を探る姿があった。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[21]第4部 壁(3)のりこえる

 民と官。水と油の風土にくさびは打てるか。東京電力福島第1原発事故に見舞われた福島県双葉郡の教育復興の船出は多難だった。
 「本気で取り組む覚悟はあるんですか。なければ私は東京に戻ります」
 赴任1週間後の会合で、2回りほど年配の教育長たちに、たんかを切った。
 PwCコンサルティング合同会社(東京)の赤司(あかし)展子さん(40)。復興支援の人材を募る社内公募に手を挙げ、2014年夏から2年間、同郡教育復興ビジョン推進協議会事務局(福島市)に勤務した。
 任務は郡内8町村が13年に策定した、東日本大震災の体験を糧に人材を育成する共同ビジョンの具現化。赤司さんは郡内小中高35校の授業や課外活動にビジョンの理念を反映させる調整役を担った。

 長年、経営難に陥った企業の事業再生に携わってきた。気負いもあり、郡内の会合では矢継ぎ早に実施計画や期限をただした。
 具体案を描けず、言葉を詰まらせる教育長ら。郡内の自治体間では避難住民の帰還に差が出ている上、教員は多忙を極める。原発事故被災地固有の言い分があった。
 スピードと成果を求める企業。合意形成を大切にする行政。意識や作法がかみ合わない。「東京から来た人に、なぜ問い詰められなければいけないのか」。富岡町教育長の石井賢一さん(63)は当時を振り返る。
 このままではビジョンが絵に描いた餅になる。赤司さんは覚悟を決めた。
 「課題の洗い出しと合意形成から始めよう」。赤司さんは郡内の学校を徹底して回った。学校行事に頻繁に参加。キャリアを生かして問題点を整理し、教員らと共有した。
 行政という異文化の事情も見えてきた。年度途中に計画を変更しにくい公教育のスタイル。肩書のないキーマンに根回しをして合意を図るムラ社会の流儀。ビジョンは次第に形となり、探求型授業「ふるさと創造学」の合同発表会や小学校の合同授業へと結実する。

 企業人の感覚を譲らないこともあった。
 創造学の発表方法を巡り、多くの教員は子どもたちにとって失敗のリスクが少ない舞台発表を主張した。赤司さんは「社会の疑似体験をさせたい」と自由度の高いポスターセッションを提案。「思うようにできなくても子どもは失敗から学べる」と押し切った。
 郡内を駆け回る赤司さんは、いつしか8町村の教育長や学校、子ども、地域をつなぐ中心にいた。石井さんは「閉鎖的な教育界に風穴を開けてくれた」と、教育行政に意識変革を促した赤司さんを評価する。
 企業人が触媒となり、官と民の化学反応を引き起こす。震災前、乗り越えられなかった組織文化の壁が一つ、切り崩された。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年02月26日日曜日


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