<新興事業創出機構>「志」を共有 溝埋める

真っ赤に実ったイチゴを前に話し合うジェブダの鷹野さん(右)とGRAの福島さん。アイデアとニーズをつなぐのもコーディネーターの役割だ=22日、宮城県山元町

 震災はCSR(企業の社会的責任)に新たな視座をもたらした。主役は自らの社会的存在に覚醒した企業。地域や消費者との共存を探る姿があった。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[23]第4部 壁(5完)とりもつ

 東日本大震災直後、CSR(企業の社会的責任)の名目で無数の企業が被災地に入ってきた。自治体や地元企業を訪ね支援を申し出ても、多くは名刺を置くのがやっとだ。成果を得られず撤退する企業もある。
 2012年設立の一般社団法人新興事業創出機構(JEBDA=ジェブダ=、仙台市)は被災地と企業の橋渡し役として、CSR活動や社会起業家を支援してきた。

 理事長の鷹野秀征(ひでゆき)さん(51)には苦い記憶がある。
 震災から1年たったころ。防災と業務の効率化を図るシステム構築をひっさげた大手企業と宮城県内の被災自治体を仲介した。鷹野さんの目の前で、企業の社員はこう言い放った。
 「最初にこれくらいのお金を頂きます」
 あぜんとする鷹野さん。社員が退席後、復興支援と思っていた自治体担当者から「あの人は何をしに来たんですか」と叱られた。
 CSRとは何か。認識の差が明暗を分ける。
 日立製作所は昨年、岩手県釜石市、ジェブダと地域活性化に関する協定を結んだ。
 震災直後から同社の情報通信担当幹部は毎月、被災した同市唐丹地区に通い「地域の実情を教えてほしい」と人間関係をつくり上げた。半年間はビジネス抜きだった。「復興に貢献したい」という思いが被災自治体に浸透した。
 「長期的視点で稼ぐのがCSR。地域や被災企業と長く結び付きを持ちたいかどうかは、担当者と話せばすぐ分かる。志で共鳴するかだ」。鷹野さんは熱意と戦略性の大切さを説く。
 被災地におけるコーディネーターの役割は幅広い。復興を巡るアイデアとニーズ。普段隔たれた二つをつなぐ作業もその一つだ。

 イチゴを浮かべた湯船に漬かる。こんな奇想天外なツアーが27日、宮城県川崎町の青根温泉であった。
 イチゴを提供するのは、同県山元町で農業による地域復興を目的に設立された農業生産法人GRA。イチゴを軸に加工、観光への展開をうかがう。話題作りと復興支援を考える青根温泉の旅館とマッチングしたのは、ジェブダだった。
 GRAの新規就農事業リーダー福島雅史さん(53)は「ベンチャーはアイデアがあるが人手がない。鷹野さんの場合、声を掛ければ意欲のある人材を集めてくれる『巻き込み力』がある」と話す。
 復興を前に進めると、幾つものハードルが現れる。行政のような権限を持たない企業や民間団体が飛び越えるには、多様な伴走者とのつながりが必要だ。
 文化や風土の違いを地道に埋め、互いの誤解を解き、好機を探る。人手もお金もかかる。時間をかけ、その先にある価値に気付いたとき、被災地と企業の新たなステージが見えてくる。
          ◇         ◇         ◇
 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年02月28日火曜日


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