<ヘルシージャパン>洗濯続け帰還を待つ

国道6号を照らすヘルシージャパンのコインランドリー。町民の帰還には地元商工業者の事業再開が欠かせない=12日、福島県楢葉町

 「一隅を照らす これすなわち国宝なり」。自らが置かれた場所で光りを放ち、社会を照らす。CSR(企業の社会的責任)の根底にある精神に通じる。地域経済を回し続ける企業の今を見詰める。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[25]第5部 一隅(2)てらす

 闇に浮かぶ希望の光。福島県楢葉町の国道6号沿いで、コインランドリーが煌々(こうこう)と夜道を照らす。
 男性が一人、ドラム式の洗濯機に1週間分の洗濯物を放り込んだ。「町内唯一のコインランドリー。建設業関係者をよく見掛ける。みんな助かっているよ」。建設会社社員の中西正一さん(50)は奈良市から同町に長期出張中。宿舎に洗濯物を干せず、週1回通う。

 コインランドリーは2015年9月、地元の総合クリーニング業、ヘルシージャパンの渡辺清社長(68)が再開させた。「真っ暗な町に明かりをともしたい」という一心だった。
 同町は東京電力福島第1原発事故で全町避難した。15年9月に避難指示が解除されたものの、原発事故前の人口約8000のうち、帰還した住民は800人強にとどまる。一方、同町で原発の廃炉や除染作業、災害公営住宅の建設に携わる県外の作業員らは900人に上る。
 皮肉な現実がある。ヘルシージャパンの得意先は楢葉町を含む双葉郡、相馬市、茨城県日立市のホテルや介護施設だった。原発事故はそれをことごとく奪った。それが今、事故関連の需要が売り上げの中心になっている。
 事故前から東電関連の取引先は多かった。複雑な思いを抱えつつ、渡辺社長は「復興事業に絡む取引先に重点を置かざるを得ない」と前を向く。

 同社は原発事故から3カ月後の11年6月、「事故の収束を待っていられない」(渡辺社長)と、避難先のいわき市で一部業務を再開した。12年10月、国の許可を得て楢葉町の本社で再スタートを切った。
 古里の復興のため。渡辺社長は「町を支えるのは産業。町民帰還に商工業者の事業再開が欠かせない」と考え、その先鞭となった。
 地域でクリーニングの需要は高まっている。
 ホテル業の蓬人館(ほうじんかん)(いわき市)は16年3月、「ホテル蓬人館 楢葉別館」(106室)を開業した。稼働率76%。宿泊者の大半は建設業や東電関係者だ。リネンのクリーニングをヘルシージャパンに発注する。
 「一日の疲れを癒やし、元気に仕事をしてもらう。地元にクリーニング業者がなければ困る」。永藤(ながふじ)妙子社長(65)は歓迎する。
 町商工会によると、町内で事業を再開した地元の商工業者は43%。復興需要に絡む建設業などが中心で、暮らしを支える中小零細の本格再起はまだ先だ。
 「町民の帰還は私たちがどこまで踏みとどまれるかに懸かっている」。渡辺社長は本業を維持し、ひたすら住民の帰還を待つ。原発事故前のように、住民の暮らしを支えた地域経済が再び回り始める日を思い描きながら。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年03月17日金曜日


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