<ぱんぷきん>手渡し配食 見守りも

平田さん(左)は談笑しながら志田さんの体調を気遣う。配食サービスが被災者の暮らしを支える=10日、石巻市水押

 「一隅を照らす これすなわち国宝なり」。自らが置かれた場所で光りを放ち、社会を照らす。CSR(企業の社会的責任)の根底にある精神に通じる。地域経済を回し続ける企業の今を見詰める。(「被災地と企業」取材班)

◎トモノミクス 被災地と企業[26]第5部 一隅(3)よりそう

 石巻市の旧北上川に近い住宅街。夕暮れ時、真新しい災害公営住宅の一室のインターホンが鳴る。
 同市の総合在宅介護サービス会社「ぱんぷきん」の社員、平田元子さん(57)が夕食のお膳を手に玄関を開けた。「入るわよー」。1人暮らしの志田つよ子さん(88)が出迎える。

 カレイの煮付け、きんぴらゴボウ、ホウレンソウとニンジンのおひたし。テーブルが彩りを増す。茶わんや小鉢は無機質なプラスチックではなく、瀬戸物だ。
 「最近、ご飯をあまり食べられなくなったかも」。志田さんのぼやきに平田さんが明るく応じる。「血糖値上がったって言ってんだから、抑えた方がいいよ」
 東日本大震災で被災した志田さんは昨年4月、災害公営住宅の完成に合わせ、仮住まいしていた大崎市の老人保健施設から引っ越してきた。買い物や自炊が難しく、毎日の夕食に配食サービスを利用する。市の助成があり、自己負担は1食約400円だ。
 今の住まいは津波に遭った自宅から北に1.5キロ。知り合いが少なく、平田さんは大切な話し相手だ。「誰とも話さない日もある。どんな話も聞いてもらえてうれしい」と感謝する。
 この日、平田さんは2軒の配達に回った。
 小林八重子さん(87)は自宅が津波で浸水。仮設住宅暮らしで体調を崩した4年前から、配食サービスを利用する。1人暮らしの小林さんは「多くの種類のおかずを作るのは大変。とても助かる」と話す。

 同社はパート・社員合わせ約260人。石巻市を中心に介護や入浴など居宅介護事業を展開する。配食サービスは60〜90代の約50人が利用。多くが1人暮らしの高齢者だ。安否確認の見守りも担う。配食は手渡しが原則。熱中症で倒れていた利用者を見つけ、通報したこともあった。
 石巻市は高齢化率31%、お年寄りの独居率は19%に上る。市介護保険課によると、10前後あった配食の登録業者は震災後、撤退などで半減した。「配食の需要は増えている」という。
 同社は震災で従業員16人、利用者5人が犠牲になった。全国の同業者の支援を受け、2011年4月に事業を再開した。
 渡辺俊雄会長(68)は「住民の要望に向き合い、ビジネスを生み出してきた。自社の利益ばかりではなく、必要としてくれている人の声に応えたい。うちにしかできないサービスを続ける」と強調する。
 震災は地域の多様なつながりを断ち、孤独や孤立をもたらした。行政や地域の隙間に陥った人々がいる。地域の困難を、地域と共に生きる企業が背負う。ごく身近なCSR(企業の社会的責任)が、地域社会を持続させる。
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 企業の社会的責任(CSR)。21世紀、世界の企業に浸透し始めた概念だ。東日本大震災後、東北の被災地には無数の企業が足を踏み入れ、試行錯誤を重ねた。艱難(かんなん)の地へ、生活の糧を、癒やしを、希望を。企業を突き動かした衝動は何だったのだろう。あれから間もなく6年。CSRを足掛かりに、あの日に返って経済社会を展望する。見えてくる明日を、私たちは「トモノミクス」と呼ぶ。


2017年03月18日土曜日


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