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<原発賠償と分断>打ち切り 不満尽きず/(中)疎外感

自宅の庭木を枝切りする佐藤さん。週に1度は掃除に訪れている=南相馬市

 「あいうえお」「1.2.3」。自宅の壁の学習ポスターが色あせている。かつて幼い孫のために貼ったものだ。無用と分かっていても、まだはがす気になれない。

<「家族そろわず」>
 南相馬市原町区高倉の無職佐藤勝治さん(80)は、東京電力福島第1原発事故で、自宅が特定避難勧奨地点に指定された。原発20キロ圏外だがホットスポット的に放射線量が高く、避難を促された。息子夫婦は宮城県に引っ越し、孫の姿もなくなった。
 「当時3歳だったのが、今では小学生。家族全員がそろう機会もなくなっちまった」と力なくつぶやく。
 除染は3度試みた。敷地内の空間放射線量は一定レベルに落ち着いたものの、毎時1マイクロシーベルトを超える地点が残る。万が一を考えると「帰ってこい」とは言えない。
 指定は昨年12月に解除され、1人当たり月額10万円の慰謝料はことし3月に打ち切られた。だが、地区民の半分は戻ってきていない。佐藤さんも市内の仮設住宅に住む。
 原状回復にはほど遠いのに、与党提言の賠償対象から外された。「慰謝料が終わったことで、東電や国が責任を果たしたことになるのが悔しい」

<やり切れぬ思い>
 原発20〜30キロ圏に位置する広野町。5月下旬、町が開いた説明会で、町民の胸の奥底にたまっていたやり切れなさが噴き出した。
 「隣の楢葉町など避難区域との格差が大きすぎる」「町長は全世帯から嘆願状を集め、国に持って行くべきだ」
 町は緊急時避難準備区域が2011年9月に解除され、慰謝料は12年8月で終了した。避難指示解除準備区域の楢葉町は18年3月まで慰謝料が継続される見通しで、両町民が受け取る慰謝料の差額は1人670万円に上る。
 復興への貢献が評価されていない−。町民の怒りの根底にはそんな思いもある。避難指示区域から外れたことで、町内には作業員宿舎が次々と建った。現在も帰還した町民の1.5倍、3000人を超える作業員が居住。町民からは「町内に見知らぬ人が大勢いて、不安だ」との声も漏れる。
 町に戻った篠崎昭次さん(70)は「復興の最前線で協力しているのに切り捨てられた気分。生活基盤を失ったのはわれわれも同じなのに、なぜこんな扱いを受けなければならないのか」。別の男性(62)は「20キロでばっさりシャッターを下ろされた。原発被災地で住民感情のもつれがひどくなるのではないか」と懸念する。

[精神的賠償の支払い状況]5月29日現在、東京電力は国と原子力損害賠償・廃炉等支援機構の支援で、約4兆9640億円の賠償金を支払った。4月末時点の精神的賠償の合意額は8424億円。国によると、2013年12月末の避難区域の人口は計8万942。


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2015年06月04日木曜日

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