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<サブドレン>故郷の海に戻りたい 苦渋の同意

試験操業を終え、漁具を手入れする永野さん。故郷の海に戻れる日を待ち望む=南相馬市鹿島区の真野川漁港

 東京電力福島第1原発に近い請戸漁港(福島県浪江町)に所属していた漁師は、サブドレン計画に慎重姿勢を示してきた。海洋汚染防止に向けて同意に転じたものの、根深い不信感は拭えない。「故郷の海に戻らせて」「被害補償を」。東電を見つめる浜の視線は今も厳しい。

 8月上旬、南相馬市鹿島区の真野川漁港。試験操業したシラスを水揚げする永野久芳さん(60)の表情に笑みが浮かぶ。「やっぱり漁は気分がいい」。同市小高区の自宅は津波に襲われた。内陸部の仮設住宅から港に通う。
 請戸を拠点に40年近く操業してきた。港湾施設の被害は壊滅的だ。周辺海域は原発20キロ圏に入り、漁の自粛が続く。「今は他人の家にお邪魔しているようなもの。自分の海に戻りたいと思っているよ」。漁師仲間の心中を代弁する。
 操業海域は漁協の支所ごとに細かく区切られている。汚染水対策で漁の正常化が進んでも、自粛が続く限り請戸の漁師は自由に船を回せない。
 「サブドレン計画の必要性は分かっていても、多くは感情的に納得できないんだ」と永野さん。自粛海域の縮小に望みを託し、苦渋の同意に踏み切った。
 福島屈指の有力港として知られた請戸。水揚げされた魚介類は東京・築地市場で評判も高かった。「市場には本格操業への待望論もある。信頼を積み上げれば風評は克服できる」。永野さんが力を込めた。
 東電は昨年夏、サブドレン計画を示してからも、汚染水トラブルを繰り返している。「信頼を裏切られ続けた。これが最後のチャンスだ」。南相馬市小高区の漁師佐藤敬次さん(67)が語気を強める。
 昨年、船を再建した。出港は月に6、7回。以前の年200回には遠く及ばない。「二の腕が柔らかくなっちまった」。かつて50キロの魚箱を楽々持ち上げた力自慢が体力の衰えを嘆く。
 遠洋船の船員を経て、37歳で請戸で自分の船を持った。故郷の海への愛着は強いが、風評被害の根深さも実感している。「いつになったら本格操業できるのか」。船に一緒に乗る息子から尋ねられるのがつらい。
 佐藤さんは「きょうは1匹でも、あしたは100匹捕れると思うのが漁師。操業意欲を維持するため、魚価の下落分を補償してほしい」と訴える。
 浜を揺らしたサブドレン計画は、廃炉作業の道のりの一つにすぎない。ひとたびトラブルがあれば水産物が受ける打撃は計り知れない。「われわれ漁師も放射能の影響を学び、消費者と向き合わねばならない」。浪江町から南相馬に避難する60代男性が自戒を込めた。


2015年08月08日土曜日

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