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<原発事故>青田ぽつんと 汚染に向き合う

出穂の状況を確認する遠藤さん=南相馬市小高区

 出穂を迎えた苗が風にそよぐ。荒れ果てた農地が広がる中で、整然とした青田が輝きを増す。
 東京電力福島第1原発事故の影響で稲作が制限されている福島県南相馬市小高区。8月、地区内で試験栽培に取り組む遠藤孝さん(77)の水田を訪れた。
 専業農家の4代目として事故前は3ヘクタール以上を手掛けていた。ことしの作付面積は4アール。連日、市内の仮設住宅から通って水田を見守る。「好天続きで生育は順調」。表情がほころぶ。
 井戸からくみ上げた水を農業用に使っている。昨年産の放射性セシウムは国の基準を大きく下回ったが、配慮は欠かさない。最も警戒しているのは稲の倒伏。土壌に稲穂が触れれば、汚染リスクは高まる。追肥を最小限にとどめ、背丈が伸びるのを抑えている。
 周囲の荒れた農地は害虫の発生源にもなる。ひとたび大量発生すれば、被害が集中するのは避けられない。「農薬散布の回数は増やした。できれば減らしたいが、こればっかりは仕方ないやね」
 イノシシなどによる食害を防ぐため、水田は電気柵で囲っている。避難前には不要だった。雑草が接触して通電すれば効果は薄れる。面倒でも念入りな草刈りが欠かせなくなった。
 稲作にとどまらず、周囲の畑ではエゴマや花、豆類など多彩な植物を育てている。「風評被害は簡単には消えない。どこかでコメに見切りを付け、新たな商品作物に切り替えなきゃ」。地域農業の先行きを冷静に見詰める。
 気掛かりは市場の反応だけではない。若手は避難先に定着するなどしており、地区内に戻るのは高齢者が中心になるとみられている。「俺たちの世代がいなくなった後はだれが担い手になるのか…」。荒涼とした農地を前に、遠藤さんがつぶやいた。(南相馬支局・斎藤秀之)


2015年08月14日金曜日

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