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<風評と闘う福島>戻らぬ価格 逆風今も

福島県産の果物などをPRする内堀知事=7月23日、東大阪市のスーパー

◎原発事故の現場(上)回復途上

 東京電力福島第1原発事故から4年半になる今も、福島県の農産品や観光地などへの風評被害が消えない。さまざまな対策が展開されているが、放射能汚染に対する根強い不安や偏見が残る。被害の実態と、風評にあらがい販路を切り開く人々を取材した。(福島第1原発事故取材班)

<拒否反応示す>
 7月23日、大阪府東大阪市のスーパー。「福島のおいしいモモです。ぜひどうぞ」。内堀雅雄福島県知事がはっぴ姿で農産品の安全性や質の良さをアピールした。
 大半の客は景品を受け取ったり試食をしたりして好意的だったが、露骨に拒否反応を示して販売員に毒づく人もいた。「東京で売れや。まだ死にとうない」
 手厚い検査体制によって福島産農産物は安全性が証明されている。2012年から全袋検査を続けるコメは、放射性セシウム濃度が基準値(1キロ当たり100ベクレル)を上回ったのは0.0003%以下で、市場には出回らない。コメ以外も、キノコや山菜類を除き、ほぼ全量が基準値を下回る。基準値を超えた場合、出荷されることはない。
 それでも、風評被害はやまない。一時と比べ弱まったとはいえ、他産地との価格差の「固定化」はむしろ進んでいるように見える。

<モモは25%安>
 14年産米の取引価格は需要減や過剰在庫を背景に全国的に下落した。その中でも福島産の落ち込みは際立った。全農県本部が農家に支払った浜通りと中通りのコシヒカリの概算金は前年比で35〜37%も下回った。
 出荷量全国2位のモモは岡山県や山梨県産と比べ、今も25%安い。贈答用を中心に買い控えの影響が残る。福島市で果樹園を営む橘内義知さん(37)は「口コミで少しずつ広げた評判が原発事故で一気に途絶えてしまった」と悔しがる。
 7月に東京で開かれた和牛の肉質を競う「全農肉牛枝肉共励会」で、喜多方市の湯浅治さん(64)の牛が日本一に輝いた。「血統改良に取り組み、餌にも気を配り、いい牛を作ってきた」と湯浅さんは胸を張るが、手放しでは喜べない。
 宮城県や岩手県産は2年で震災前水準に戻ったが、「福島牛」は1キロ当たり200〜300円(約15%)の差が埋まらない。「福島産というだけで安い値が付く。これほどむなしいことはない」

<賠償額5800億円>
 観光などにも逆風が吹き続ける。14年度の教育旅行による宿泊者数は約35万人と事故前のほぼ半分。一般宿泊者も8割にとどまる。ことし4〜6月の大型観光宣伝「ふくしまデスティネーションキャンペーン」期間中の入り込み客数も事故前の9割のレベルだった。
 消費者庁が13年2月に始めた半年ごとのインターネット調査。昨年2月に15.3%まで減った「福島県産品の購入をためらう」と答えた割合が、同8月には19.6%に増えた。ことし2月は17.4%で行ったり来たりを繰り返す。
 東電が昨年12月末までに県内の個人、法人に支払った風評被害の賠償額は5800億円に達する。
 風評被害に詳しい東大大学院の関谷直也特任准教授(災害社会学)は「放射能はどこから安全でどこから安全でないか区別が付きにくい。実際に放射性物質が飛散し、高線量の地域が残り続けるので、風評被害はなかなか収まらないだろう」とみる。


2015年09月04日金曜日

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