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<賞味期限偽装>「食の番人」役割放棄

賞味期限を偽装していたヒット仙台(右上)と初検査に入る保健所職員(左上)、告発文(下)のコラージュ

 宮城県亘理町の業務用食材卸売会社「ヒット仙台」(藤原裕巳社長)による冷凍海産物の賞味期限改ざん問題は、食の安心・安全を根底から揺るがした。内部告発は生かされず、保健所は「食の番人」としての役割を放棄。「犯人捜し」と「証拠隠滅」を許した。公益通報者保護制度を骨抜きにする事態を招いた宮城県の責任は重い。(報道部・斉藤隼人)

◎立ち入り1分 証拠隠滅の機会与える

<説明真に受ける>
 9月1日午後1時10分ごろ、県塩釜保健所岩沼支所の職員2人がヒット仙台に姿を現した。元従業員の内部告発を受け、事前通告なしで実施した最初の立ち入り検査だった。
 情報提供を受けた記者も「不正の全容が解明される」と思いながら、現場で一部始終を見守った。
 1分後、期待は落胆に変わった。職員は検査を打ち切り、あっという間に立ち去った。「(検査対象の)店頭販売は今はしていない」。従業員の説明を真に受け、社長を呼び出したり、書類を確認したりすることはなかった。同日午後、5月に告発した元従業員に「調査対象がなかった」と検査打ち切りが伝えられた。
 「誰が漏らしたんだ」。直後、社内で犯人捜しが始まった。非通知の無言電話が自宅に何度もかかってきた従業員もいた。
 元従業員は偽装前後の商品ラベルや在庫表を保健所に提出し、不正の手口や検査対象を詳しく伝えていた。熱意と勇気は届かず、不信感だけが残された。
 「中途半端に会社を刺激するだけなら何もしない方がましだった。通報者を危険にさらし、証拠隠滅の機会を与えたのだから」

<必要書類伝える>
 保健所は失態を繰り返した。9月9日、必要な書類を全て同社に伝えてしまう。次に接触した10月5日まで約1カ月の間、同社は賞味期限が切れた商品約1トンを保健所に無断で廃棄した。
 社長命令で不正に関わった従業員も会社を去った。「不在」が続いていた社長が初めて保健所に姿を見せたのは10月6日だった。
 2006年に公益通報者保護制度がスタートしてから、宮城県に寄せられた食品関連の通報は今回を除きわずか3件。いずれも06〜07年度で、2件は不正が確認されなかった。
 県食と暮らしの安全推進課は「保健所に捜査権がなく、対応に限界があった」と釈明するが、「食の番人」をつかさどる気概は感じられない。
 食肉加工販売会社「ミートホープ」の食肉偽装事件を経験した北海道食品衛生課は「責任者が不在でもその場で呼び出し、初日に書類を調べる。書類整理に1カ月も与えるなど聞いたことがない」と宮城県の対応に驚く。
 塩釜保健所は関係書類の精査を進め、違法行為が裏付けられれば告発する方針だ。ただ、証拠が残されているかは不透明で、警察は難しい判断を迫られる。
 ジャーナリストの大谷昭宏氏は「保健所は『都合が悪い証拠は隠して』と言ったに等しい。結果的に何も知らない市民が被害に遭い続ける。告発を踏みにじり、制度の信頼性を揺るがした罪は重い」と指摘する。

[賞味期限改ざん問題]賞味期限ラベルを偽造した海産物を2014年1月〜15年8月に約1.5トン出荷したとして、宮城県は15年10月23日、ヒット仙台に営業自粛を指示。偽装食品の出荷先は東北の旅館やホテル計38カ所で修学旅行の受け入れ先を多数含む。県は9月1日、公益通報に基づく検査終了を通報者に伝え、翌2日の河北新報社の取材を端緒に再検査に着手した。「国産」と産地を偽ったり、いったん解けたカニを再冷凍して出荷したりした疑惑も判明している。

[公益通報者保護制度】国民の生命や財産に関わる違法行為が生じようとしている際、雇用先の不正を通報した労働者を守る制度。通報を受けた行政機関は必要な調査を行い、法令違反があれば指導や公表など適切に対応することが義務付けられている。


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2015年11月02日月曜日

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