岩手のニュース

<災害公営住宅>「鉄の扉」交流閉ざす

クリスマスの小物が飾られた二川さん宅の玄関。「四季を常に感じることが長生きの秘訣(ひけつ)」と話す
高台に整備された県営平田アパート

 岩手沿岸の被災地で、災害公営住宅での生活再建が進む。一軒家からマンション型の生活へ。住環境の再生とは対照的に、昔ながらの近所付き合いが薄れたことを嘆く人は多い。釜石市の災害公営住宅で、暮らしの実情を見た。(横山勲)

◎マンション型生活 トラブルで関係に溝も

<絶えない苦情>
 JR釜石駅から車で約15分の高台。沿岸部から、かさ上げ工事を進める重機の音が響く。
 鉄筋コンクリート7階の災害公営住宅「県営平田アパート」は、昨年2月に入居が始まった。いまは113世帯が暮らす。
 住民が1年交代で務める管理人4人の一人が言う。「掃除や入浴の生活音から、ごみの出し方までいろんな苦情がくる。人間関係が希薄で、すれ違ってもあいさつすらない」。主な役目は住民間で起きるトラブルの仲裁だ。
 「鉄の扉」。各戸の玄関ドアをこう呼ぶ。
 被災者が寄り添って暮らした仮設住宅と違い、マンション型の住居は隣近所の顔を見えなくした。住民の交流が閉ざされたことを重い扉に例える。
 アパートには、さまざまな地域で被災した人たちが暮らす。互いのことはよく知らない。時折、悪質な訪問販売があることも住民が警戒心を強める要因だ。
 管理人は「誰が訪ねて来るか分からないという警戒心が住民同士を疎遠にし、ささいなトラブルで人間関係の溝が深まっている」とつぶやく。

<自治会を設立>
 住民同士が信頼できるコミュニティーをつくろうと、ことし5月に自治会が発足した。設立に関わった佐藤亮三さん(69)も生活音でトラブルを経験した。
 「嫌でもここで暮らしていかなくてはならない。無視されてもいい。声を掛け続けて顔の見える関係を築き、お互いさまの気持ちで支え合える暮らしがしたい」と心を砕く。
 「仮設住宅では住民同士で家を行ったり来たりして交流があった。ここはみんな孤立していて、ろう屋みたい。何とかしたいね」
 3階に住む二川訂子さん(80)は朝夕、玄関ドアにストッパーを挟み、開け放つ。玄関に飾り付けをするのが趣味。師走に入り、サンタクロースの人形やクリスマスの小物、電飾が華やかに並ぶ。
 人形のスイッチを押すと「きよしこの夜」のメロディー。「人形に囲まれているとさみしさが紛れるのよ」。夫に先立たれて1人暮らし。元居た仮設に親しい友人はいるが、アパート住民との付き合いはない。
 ささやかな交流でいい。「鉄の扉」を開ける人が増えることを願う。
 時々、近所の子どもたちが玄関の飾りを見に来るようになった。「仮設の方が良かったなんて、言いたくないのよ」。二川さんが笑顔で語った。

[メモ]岩手県の災害公営住宅は沿岸11市町村と一関市で戸建てと長屋、アパート、マンションの4タイプの計5771戸が整備される。一関市の公営住宅は地震で家屋が損壊した世帯向けマンション。10月末現在2497戸が完成し、入居率は87.1%。2018年度中に全戸完成の予定。


関連ページ: 岩手 社会 焦点

2015年12月04日金曜日

先頭に戻る