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<もう一度会いたい>愛して愛された長女

麻里さんの遺品。家を新しくした時、専用の棚を作った

◎(5)かなわなかった夢

 宮城県石巻市の今野浩行さん(53)と妻ひとみさん(45)の長女麻里さんは1992年に生まれた。2人が一緒になった明くる年だ。
 初孫の誕生を浩行さんの父、浩さんは大層喜んだ。
 盛大に「孫振る舞い」を開き、ご近所にごちそうした。
 浩さんは電気部品工場を営み、景気のいい時は地域の女性ら100人を雇っていた。
 麻里さんは女性従業員に代わる代わる抱っこしてもらっていた。
 一番抱っこしたいのはひとみさんなのに順番が回ってこない。
 おっぱいをあげる時だけ独り占めでき、いつも「早く授乳の時間が来ないかなあ」と思っていた。

<人前で堂々>
 赤ちゃんのころからたくさんの大人に接していたせいか、麻里さんは人前で動じなかった。
 学芸会の劇では主役を張る。
 幼稚園の時は「孫悟空」で三蔵法師を演じた。中学校では「ライオンキング」でテーマソングを英語で独唱し、「ジュピター」をバイオリンで奏でた。
 高校は演劇部に入る。
 恋の兆しがあったのはそのころだ。
 同じ学年の剣道部の子から告白された。
 初デートは地元のイオンモール。
 「お父さん、送ってって」
 おめかしした娘にせがまれ、浩行さんは車で連れて行った。
 なぜか後部座席にひとみさんと1学年下の妹も乗り込んでいる。食事の買い物に出る予定とたまたまかち合ったという。
 麻里さんとボーイフレンドはフードコートでクレープを食べながらおしゃべりしている。ペットショップのショーウインドーの前で「かわいいー」とはしゃいでいた。
 初々しい若いカップルの背後に、距離を置いて付いて回る2人の影があった。目が合いそうになると、慌てて商品棚の陰に隠れる。
 2人ともカップルの女の子の方と顔がそっくりだから正体は察しがつく。
 「絶対バレてんぞ」
 車で待っていた浩行さんはあきれた顔をしている。
 「んだって大事な娘がどっかに連れ込まれてチューとかされたら大変だもの」
 尾行に感づいたかどうかは娘には最後まで聞かず、うやむやにした。

<はかない恋>
 ボーイフレンドとその後どうなったかは詮索していない。
 何となくの感じでは、はかない恋に終わったようだ。
 麻里さんは子ども好きで保育士を目指していた。享年18。望みをかなえる前に命が尽きた。
 葬式の時、幼稚園ぐらいの男の子がお母さんに連れられ、小さい手を合わせていた。
 麻里さんの高校の同級生の弟で生前、よく遊んでもらったという。
 親の知らないところで娘は成長していた。


2015年12月05日土曜日

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