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<もう一度会いたい>お笑い係 学校で家で

6年の時の運動会。地区対抗リレーの選手に選ばれ、優勝した。翌年の震災で12歳で生涯を終える

◎(7)笑顔の記憶 遺影に

 大輔君は上のお姉ちゃんが六つ、下のお姉ちゃんが四つの時に生まれた。
 今野家にとって初めての男の孫。祖父は初孫のときに限って行う「孫振る舞い」を特別に催した。
 家業の電気部品工場は大輔君が小学校に入るころに畳んだが、「孫がいつか再開してくれたら」と跡地を手放さずにいた。
 保育園脱走事件が家族で語り継がれている。
 お昼寝の時間、先生の目を盗んで園を抜け出した。布団がもぬけの殻で、総出で探し回る。お寺の前を歩いているところを見つかり、連れ戻された。
 眠くならず、寝たふりするのが苦痛で脱出したという。
 次の日から園の門は厳重に鍵が掛けられた。

<投げ技一本>
 小学校低学年の時に柔道を習わせた。
 投げられるのが嫌で初めは渋々だった。
 6年生の地区大会。
 対戦相手を見てひるんでいる。でかい。タレントの内山君みたい。
 「やばい。絶対負ける」
 始める前から腰が引けている。
 「やってみなきゃ分かんないでしょ」
 母のひとみさんに背中を押され、畳に上がった。
 「始めっ」
 あらら。投げ技がきれいに決まった。一本勝ち。
 意気揚々と下りてきた。さっきまで半ベソだったくせに。
 ひょうきんで人気者。
 家に持ち帰った学級便りに各児童の係の受け持ちが書いてあった。

<今野大輔…お笑い係>
 「何だこれ」
 父の浩行さんが聞いた。
 朝礼の時に前に出て一発ギャグをしてみんなを笑わせる役目だという。
 5年生の学習発表会で「はだしのゲン」の弟を演じた。体格が良くて兄のゲンより大きかった。
 6年の運動会では紅組の応援団長を任される。白牛乳を飲み干すパフォーマンスを見せ、喝采を浴びた。

<本の持ち主>
 ある日、同級生が家に遊びに来た。帰った後にひとみさんが息子の部屋を片付けたらエッチな本が出てきた。
 「あらやだ」
 ひとみさんは同級生の子が持ち込んだと思い、担任の先生に報告した。
 「教育上よくないのでその子にさりげなく言っておいてもらえますか」
 後日、先生から連絡が来た。双方から事情聴取したらしい。
 「言いにくいことなんですが…。実は本は大輔君がお父さんの部屋から持ち出したようなんです」
 「ん?」
 本人が自供したという。
 ひとみさんは耳の先まで赤くなった。
 「何で先に俺に言わないのよ」
 浩行さんは苦笑いしている。騒ぎのもともとの原因者だけに威厳はない。
 大輔君は大抵おなかをすかせて学校から帰ってきた。
 玄関にズックを脱ぎ捨て「腹減ったー」
 「今、晩ご飯の空揚げ作ってるから待ってな」
 「1個いい?」
 上目遣いで母の顔色をうかがいながら手を伸ばす。
 いつもニコニコしていた。
 アルバムの写真は笑顔のしかない。
 遺影の中でもほほえんでいる。


2015年12月09日水曜日

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