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<もう一度会いたい>この人の子 産みたい

クリニックからの帰り道。夫の言葉が心に染みた

◎(10)不妊治療の道選ぶ

 いい結果でないだろうとは診断前から察していた。
 8週までいった前回の時と体の感じが違う。宿っている気がしない。
 11月。宮城県石巻市の今野ひとみさん(45)は不妊治療クリニックの診察台にいた。
 先生がおなかにエコーを当てる。
 モニターに像が映らない。
 「着床してないですね」
 予感は的中した。
 夫の浩行さん(53)に促されて帰途に就く。

<1年もせず>
 ひとみさんが新しい子を欲しがったのは比較的早い時期だった。震災数カ月後には夫に切り出している。
 「一周忌も終わっていないんだぞ」
 夫は当惑していた。
 ひとみさんは喪失感を埋めたいと言った。震災で3人の子に先立たれている。
 「新しい子をあの子たちの分身にするのか? ならその子がかわいそうだ」
 正論で反対された。
 身代わりにするつもりはない。その子はその子として育てる。
 「だったらあの子たちが気の毒だ。新しい子に気が傾き、いつかあの子たちを忘れる」
 夫は頑として認めない。
 ひとみさんは引かなかった。1年ぐらいだろうか。堂々巡りが延々続いた。
 同様に震災で子を失ったよそのお母さんが身ごもったとか聞くと気がせく。年を一つ重ねても焦る。
 ついに心のたがが外れた。感情が爆発する。
 「あたしはあんたと結婚して何もいいことがなかった。21で嫁いで家事と育児と仕事に追われっ放し。子がようやく手が掛からなくなったと思ったら震災だ。あたしの人生返せ」
 夫は黙って聞いていた。
 何日か後。
 2人は不妊治療の病院の門をくぐった。
 自然受精は年齢的に難しく、体外受精の道を選ぶ。
 通院は1日置きだった。移動時間を入れたら半日つぶれる。当時共働きで、どっちかが仕事を辞めないと治療継続は困難だった。
 「あたしが働く。お父さんはサポートして」
 ひとみさんが提案した。
 それは逆だろうと浩行さんは思ったが、送迎とか考えるとその方が合理的で、妻の申し出を受け入れた。
 卵を子宮から取り出す時全身麻酔する。受精卵を戻す時も。麻酔が覚めると吐き気がし、何度か戻した。
 これでは体が持たないと治療先を今のクリニックに替えた。
 試みはこれまで14回。望みはかなっていない。
 ひとみさんは身を二つにしたい理由をあらためて自問する。
 分身を求めているから?
 親が死んだ後も、あの子たちのことを語り継ぐ存在を得たいから?
 何かどれもちょっとずつずれている。
 治療に投じた費用は計300万円を超す。公的助成も切れる。
 潮時かもしれない。
 結果が芳しくないのはあの子たちがそれを望んでいないからかもしれないし。

<悔い残すな>
 クリニックからの帰り。
 ひとみさんは隣でハンドルを握る夫に話し掛けた。
 「治療は今回で終わりにしようと思う」
 夫は答えた。
 「ここでやめたら悔いが残るんだろ? 気の済むまでやればいい」
 穏やかな口調だった。
 子の欲しい理由がやっとはっきりした気がした。
 あたしはこの人の子を産みたいんだ。
 この人の子を抱っこしたいんだ。


2015年12月12日土曜日

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