宮城のニュース

<もう一度会いたい>一家だんらん夢の中

大輔君の手書きの借用書

◎(15完)笑顔感触あのまま

 次女のボーイフレンドは変わらず娘の命日に顔を見せに来てくれる。
 宮城県石巻市の今野浩行さん(53)とひとみさん(45)の2番目の娘、理加さん=当時(16)=が高校時代に付き合っていた元同級生だ。
 在りし日の思い出話を聞かせ、近況報告して帰る。
 元彼と言った方がいいのかもしれない。
 LINEのプロフィルには違う女の子とのツーショット画像が貼ってある。
 突っ込んでは聞いていないが、きっとそういうことなのだろう。

<共に受験を>
 震災から4年9カ月。人の心が移ろうには十分な時間がたっていた。
 震災で3人の子に先立たれた。理加さんは高2、お姉ちゃんの麻里さん=当時(18)=は高3、弟の大輔君=同(12)=は小6で生涯を終えた。
 震災後のある日。
 マイカーの運転席のドアポケットに紙が挟まっているのが見つかった。
 <10円足りない 今野大輔>
 息子の字だ。
 近所の雑貨屋さんで少年ジャンプを買う時、お金が足りず、一筆書いて不足分を後払いにしてもらったらしい。
 わが子は地域に育てられていた。
 息子の1学年下だった哲也君がことし、高校受験した。
 児童74人が犠牲になった「大川小の悲劇」で生き残った1人。息子が「先生、山さ逃げよう」と訴えていたのを証言してくれた子だ。
 「哲ちゃん、これも筆箱に入れて試験受けてくれない?」
 ひとみさんは1本の鉛筆を渡した。
 息子の遺品。泥の海に沈んでいたランドセルに入っていた。
 哲也君は合格した。
 「良かったね大輔。これであんたも高校生だ」

<神様信じぬ>
 仮設住宅暮らしは3年でおしまいにし、昨年、新居を建てた。海の近くを嫌い、奥の高台に構える。
 神棚は設けない。
 神様は子どもたちを助けてくれなかった。
 初詣の日はあれから大川小に行っている。
 神社に行くのはやめにした。
 子どもたちは生まれると、名前をはんこ屋さんに決めてもらっていた。姓名判断をする店で、前もって幾つか候補を考え、その中から選んでもらう。代金はその分上乗せした。
 無病息災。
 不老長寿。
 はんこ代返せ。
 震災の翌年、長女の麻里さん宛てに成人式の招待状が届いた。親の代理出席でもいいと言っている。
 亡くなって日が浅く、出る気になれない。それ用に額入りの写真を作り、友達に持って行ってもらうことにした。
 アルバムの多くは流されている。それっぽく使えるのは大輔君の七五三の時にきょうだいそろって記念撮影した1枚しか残っていない。
 麻里さんはその時11歳。
 成人式の写真はあどけない顔をした女の子に振り袖の画像を張り合わせた合成写真だった。
 ひとみさんは夢を見る。
 台所でご飯の支度をしていたら後ろから不意に麻里さんに抱き付かれた。「お母さん」。ふにゃっとした感触が背中に残っている。
 夢の中なら子どもたちは生きている。
 きょうも夜が更けた。
 もう休もう。
 夢ならまた会える。
(報道部・伊藤寿行)


2015年12月19日土曜日

先頭に戻る