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<復元オオカミ絵>地域のぬくもり継承

復元され、地元に披露されたオオカミ絵と林さん(右から2人目)=11月28日、福島県飯舘村の佐須公民館

◎失われた遺産 絆がつなぐ(下)新しい当事者

<保存画像を分析>
 「怖いものでなく、人に身近な場所で一緒に暮らしている。そんなオオカミたちの姿が表現され、飯舘の自然の豊かさを感じた」
 ことし4月上旬、東京・上野にある東京芸術大保存修復日本画研究室で、准教授の荒井経さんは語った。見せてくれたのは、杉板に自ら描いたオオカミの真新しい絵。福島県飯舘村佐須の山津見神社拝殿にあった天井の絵(計237枚)の復元を試みた、最初の1枚だった。
 2013年4月の火災で拝殿が焼失する直前、和歌山大観光学部の特任助教サイモン・ワーンさん(59)が撮った保存画像から絵の特徴、画風を分析し、日本画の伝統技法で再現した。
 依頼したのは、ワーンさんと一緒にオオカミ絵を調べた同大教授加藤久美さん(55)。「貴重な遺産の復元を」と氏子会の住民や支援者たちに訴え、14年夏にいったん検討が始まった。が、中心だった禰宜(ねぎ)の久米順之さん(47)が事情あって神社を退職し、話は頓挫した。加藤さんが最後の頼みとした人が、専門家の荒井さんだった。
 6月21日、火災から2年2カ月ぶりに再建された山津見神社を、保存修復日本画研究室の院生たちが訪ねた。「復元作業に携わる前に、オオカミ絵の古里で、(東京電力福島第1)原発事故被災地である現地を見て感じてほしい」という荒井さんの希望だった。
 一行は新しい拝殿の天井を仰ぎ、山の神が鎮座する裏手の虎捕山に登り、無人の佐須の集落を見た。伊達市に避難中の氏子総代菅野永徳さん(75)から「絵はわれわれの歴史。次代につなぎたい」との願いを聴いた。
 研究室に約20人が集い、作業の絵筆を執ったのは8月。「失ったものを取り戻すのでなく、絵が伝えた人と土地のぬくもりを、一人一人が現代の画家として受け継ごう」(荒井さん)という形の復元を志し、保存画像の絵と向き合った。

<途切れない客足>
 再建された山津見神社で例大祭が催された11月28日、佐須公民館には朝から客が途切れなかった。復元の第1期分としてオオカミ絵100枚が完成し、地元で披露されたのだ。「奇跡のようだ。避難先の仲間が60人も見にきた。佐須の人の心もよみがえらせてくれた」と菅野さんは喜んだ。
 研究室でオオカミ絵を制作した修士1年の林宏樹さん(24)はお披露目の場に立ち会い、胸を熱くした。
 埼玉県出身で11年春に芸大に入ったが、震災と原発事故で入学式は中止に。「トラウマを抱え、絵筆で何ができるかと考え続けた。4年の時に浜通りの無人の被災地を訪ねたが、見えないものの恐怖に震えて、何も描けなかった」
 復元を通して飯舘村に関わり、「模索した絵を地元の人々に受け入れてもらえた。自分もようやく震災の当事者として役立てた」。

[オオカミ絵の今後]完成した100枚は福島県美術館が保管。「震災の中で失われ、新たに生まれた地域の文化資源として広く紹介したい」(増渕鏡子学芸員)と来年5月末から7月初めに企画展を開き、その後、山津見神社に奉納する。荒井さんらは残り約140枚の復元に取り組む。


関連ページ: 福島 社会

2015年12月21日月曜日

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