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<中間貯蔵>交渉主導権 なぜ国に

移住先でホウレンソウ栽培用のビニールハウスを建てる樋渡さん(中央)=15日、栃木県栃木市

◎故郷を手放す地権者(上)消えぬ不信感

 東京電力福島第1原発事故の除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の用地交渉が難航している。福島県大熊、双葉両町の地権者2365人のうち、売買や賃貸に同意したのは22人にとどまる。復興に不可欠な施設という大義名分と、土地を手放すためらいとの間で揺れる地権者の心情に触れた。(福島総局・横山浩之)

<納得できない>
 国策で進めた原発の事故で古里を追い出された。その揚げ句、国が土地の買収価格を一方的に決める。納得できない。
 樋渡善彦さん(63)は中間貯蔵施設の予定地になった大熊町夫沢地区に住んでいた。農業高校卒業後、地元の電気工事会社などに勤め、30歳で内装会社を興した。
 懸命に働いた蓄えを充て、14年前に自宅を新築した。総ヒノキ造りで120坪。奈良県など県内外に足を運んで建材を選び、自ら図面を引いた。
 内装会社を畳んだ後は、ホウレンソウなどの野菜農家に転じた。栽培を始めて7年目。農地拡大を計画した直後に、原発事故が起きた。原発に隣接する夫沢地区は帰還困難区域に指定された。
 栃木県栃木市に腰を落ち着け、妻や長男ら4人で暮らす。自慢だった自宅には3年ほど前に足を運んだきりだ。避難の途中、原発が爆発したとのニュースを聞いた瞬間から、「帰還は無理だ」と悟っている。
 82歳になる母親は「大熊を見に行きたい」とねだる。「行きはいいけど、帰りはつらくなるだけだ」と言い聞かせる。農業生産法人を設立し、施設園芸に再び取り組む。

<「悪者扱いか」>
 自宅や畑が中間貯蔵施設になるという話を聞き、インターネットで確かめた。環境省は何も言ってこない。地権者との用地交渉が進まず、建設が遅れている−。そんな報道を見て、頭に血が上った。
 「連絡も寄こさないくせに、地権者を悪者にするつもりか」。福島環境再生事務所の電話番号を調べ、問いただした。ことし11月中旬、相談窓口などが書かれた封書が届いた。
 国は宅地や農地を、原発事故がなかったと想定し、今の取引価格の半額で買い取り、県が残り5割を穴埋めする。買収額算出の標準値は宅地で1平方メートル当たり2800〜9250円。建物は同じものを再建すると想定し補償する。
 「国は原発事故で土地価格がゼロになったと言うが、原因をつくったのは誰なのか。加害者側が値段を付けるやり方はおかしい」

<平行線たどる>
 「地権者会」のメンバーに名を連ねる。取引価格を常磐自動車道の用地買収が行われた2001年当時に見直すよう求めて環境省と交渉を重ねるが、平行線をたどっている。
 1通目の後、ほどなくして2通目の封書が届いた。補償額を算定するための現地調査への立ち会い依頼だった。調査は受け入れるが、今の補償基準で契約するつもりはない。

[中間貯蔵施設]福島第1原発周辺の計16平方キロに建設。最大で2200万立方メートル(東京ドーム18杯分)の発生が見込まれる廃棄物を最長30年間保管する。放射性セシウム濃度に応じ、専用容器での保管や地下埋設を行う。ことし3月に廃棄物の試験輸送が始まった。地権者のうち約1000人と連絡が取れておらず、その大半は死亡するなどしたとみられる。


2015年12月24日木曜日


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