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<中間貯蔵>墓移設 高線量が阻む

防護服を着込み、墓に手を合わせる多田さん夫妻=11月22日、福島県大熊町

◎故郷を手放す地権者(下)汚された遺骨

<無縁仏だけは>
 東京電力福島第1原発事故の除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の予定地に、墓がある。遺骨はどうなるのか、一向に説明がない。気をもむ日々が続く。
 第1原発の排気筒を臨む墓地で、多田正友さん(72)と妻の春子さん(68)が静かに手を合わせる。墓には、原発事故の2カ月前に32歳の若さで病死した五男正和さんが眠っている。
 自宅は福島県大熊町夫沢の海沿いにあった。東日本大震災の津波が、近くを流れる小川の橋にぶつかり、しぶきを上げた。車に飛び乗って逃げ延びた。家は跡形もなく流された。原発事故が追い打ちをかけ、墓も含めて集落は帰還困難区域になった。
 「無縁仏にしたくない」。避難先の茨城県日立市から毎月、ゲートで隔てられた墓地に通う。墓石や遺骨は、国の基準で動かせないほど高線量である可能性が、東電による放射線測定で分かっている。

<一方的な説明>
 「最後は金目でしょう」。2014年夏、施設をめぐる環境大臣の発言に耳を疑った。地権者説明会でも、土地などの補償方針を一方的に説明する国の姿勢に違和感が募り、途中で席を立った。受け入れは「県や町が勝手に決めた」との思いが今も拭えない。
 施設が復興に必要であることは理解している。だが、今のままでは契約に応じられるわけがない。
 ことし10月、環境省が行った墓地の現地調査に立ち会った。「骨が動かせないのに、一体どうするつもりだ」。職員に問い掛けたが、2カ月以上たっても何の連絡もない。しびれを切らして2度電話した。「折り返し電話します」。そう言ったきり音沙汰がない。
 町は、放射線量が低く、復興拠点と位置づける大川原地区に新たな共同墓地を整備する方針を打ち出している。遺骨を残して墓石だけを建てても仕方ないと思う。土地買収の契約に応じるかどうか考える材料がないのに、判断をせかされているような感じがする。

<物言える町に>
 11月に町議選があった。住民の気持ちを大切にし、国や町に物言える町議会になってほしい。無投票を阻止しようと打って出て、あえなく落選した。
 自宅や墓地はかつて、水田や雑木林に囲まれていた。今は雑草が生い茂るだけだ。人も土地もほったらかし−。
 多田さんは切に願う。「せめて墓参りができるぐらいの環境は残してほしい」


2015年12月26日土曜日

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