宮城のニュース

<3.11と今>混乱の夜 温かな奇跡

商店街を駆ける春介ちゃん。雪さんが笑顔で見守る=昨年12月20日、東京都杉並区
生後間もない春介ちゃん

 東日本大震災から5年がたとうとしている。被災地で多くの困難に直面した人々は、震災が突き付けたものの意味を思い、災後の日々を重ねてきた。混乱を極めた時期から一歩ずつ再生の道を歩む5年間の時間軸の視座から、それぞれの心の軌跡をたどる。まずは子どもに光を当てたい。

◎子ども 成長の春(1−上)寺田春介ちゃん

 この春、お兄ちゃんになるよ。弟か妹か、まだ分かんない。
 東京都杉並区の寺田春介ちゃん(4)。ママのおなかにいた宮城県石巻市で震災に遭い、翌12日に誕生した。
 仮面ライダーに妖怪ウォッチ、恐竜、お菓子が大好き。「ねえママ。食べさせて」。つい甘えてしまう。
 ママの雪さん(40)は最近、春介ちゃんの成長を感じた。駅の階段を2人で上り下りする時、歩くスピードを遅らせる。買い物では荷物を持つ。「身重の私を気遣ってくれる」
 2011年2月、雪さんは出産のため石巻市門脇の実家に戻った。近所の姉のアパートで昼寝中、地震に襲われた。姉と実家に駆け付け、父母と4人で2階に避難して津波を免れた。
 おなかに痛みが走った。予定日まで2週間。破水していた。道路が浸水して出られない。救急車を呼ぼうと何度通報してもつながらない。外は雪。布団にくるまり、無事を祈った。
 翌朝、姉とパトカーで避難所だった山下小の保健室に運ばれた。午後3時ごろ、歩いて近くの民家の和室に通された。
 暖かくて心地よかった。避難所に居合わせた人たちが雪さんを不安にさせないよう準備していた。
 保健師さんらは消毒液などを手に入れ、お湯を沸かした。自らも被災し避難中だった助産師さんは分娩(ぶんべん)できる場所を探し回った。避難所の裏に住む女性が自宅を貸してくれることになった。
 午後6時12分。電気の通っていない室内に産声が響いた。懐中電灯で照らしてくれた姉は泣いた。助産師さんは避難所に戻って誕生を知らせた。お祝いの拍手に包まれた。
 震災発生から4日目、東京から車で石巻に向かっていた夫好作さん(38)と連絡が取れた。赤ちゃんの写真を携帯電話で送る。「奇跡だよ」と返ってきた。
 雪さんが勤める美容室のホームページ。約400点の写真や動画で、春介ちゃんの5年間の歩みを紹介している。故郷の石巻に元気な姿を届けたいという思いもある。
 自宅を提供してくれた女性から毎年、春介ちゃんの誕生日にプレゼントが届く。新たな縁に感謝する。
 雪さんは震災から1週間分の新聞を自宅にしまっている。もう少し物心がついたら見せて語り掛けるつもりだ。
 「みんなの支えであなたはここにいるのよ。思いやりのある子になってね」
(沼田雅佳)


2016年01月01日金曜日

先頭に戻る