宮城のニュース

<3.11と今>指先 亡き人に触れる

礼拝堂にある「いのちのピアノ」。震災の犠牲者を忘れないとの願いも込められている=名取市

◎思い刻む(2)名取市 いのちのピアノ

 贈り主の魂は、神様の御手(みて)のうちにある。
 宮城県名取市の日本キリスト教団名取教会の礼拝堂にアップライトピアノが置かれている。縦約1.3メートル、横約1.5メートル。カバーにバラの刺しゅうが施されてある。
 東日本大震災の津波で亡くなった教会員の草刈ひろみさん=当時(60)=が今から20年ほど前、教会に寄贈した。
 宮城県内の中学と高校で音楽教師を務めた。ピアノは将来の道を決めて国立音大に進んだとき、両親から記念に贈られた。
 その後、自宅にグランドピアノを入れることになり、「礼拝で通っている教会に思い出のピアノを贈ろう」と考えた。
 1985年に洗礼を受けた。日曜礼拝でオルガンの伴奏役を担い、聖歌隊の一員を務めた。教会が毎年11月に開くチャペルコンサートで、このピアノの伴奏で賛美歌を歌い上げた。

 震災の年の春、定年退職の予定だった。「第二の人生はますます教会に奉仕しますね」。周りにそう語っていた。
 あの日は勤め先の白石市の特別支援学校で卒業式を終え、父母と3人で暮らす宮城県亘理町の自宅に戻った。自宅は海から約1.8キロ。3人とも津波にのまれて命を落とした。
 同じ教会のメンバー高橋嘉男さん(73)=名取市=は「温厚だが、会議の場ではっきりと物を言う方だった。教会で奏楽者の役割は大きく、なくてはならない存在だった」と惜しむ。
 教会関係で犠牲になったのは草刈さん一家ら計4人。建物は震災の揺れで床や壁が壊れた。ピアノは忘れ形見になった。
 震災1年後の追悼コンサートを控え、牧師の荒井偉作さん(47)は決めた。
 「音楽は理屈や言葉を超え、人々に生きる力を響かせる。形見とは違う呼び方をしよう」
 「いのちのピアノ」が生まれた。

 荒井さんは教会の訪問者にピアノを紹介し、弾いてみることを勧める。被災地を訪れるボランティアや合唱コンクールに出場する小中学生。200人を超える人々が思いに触れた。
 演奏会でピアノを使った歌手らは「弾きやすい」と声をそろえた。演奏者の一人は鍵盤から指先に伝わる感覚で「草刈さんはこのピアノを丁寧に扱っていたんですね」と評した。
 ピアノの意義を広めることは被災地の教会として使命になっている。ホームページに写真を載せ、活用を呼び掛ける。演奏の場として礼拝堂を貸し出す。
 荒井さんは「津波で犠牲となられた方々のご家族の結婚式でもいい。命について考える機会にピアノを生かしてほしい」と話す。
 信徒たちは祈る。
 生の重さ、尊さを思い起こす旋律が続くことを。(沼田雅佳)


2016年01月25日月曜日


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