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<その先へ>作り手の思い届ける/被災地の名産品販売

サンビルの販売ブースで仕入れの打ち合わせをする佐々木さん(右)と渡辺さん=盛岡市大通

◎販売業 佐々木生太郎さん=岩手県山田町

 東日本大震災で販路を失い、福島第1原発事故の風評被害に苦しむ岩手県の事業者のために、山田町の佐々木生太郎さん(65)が単独で海産物などを請け負って販売している。自身も仮設住宅で暮らす被災者。車で盛岡市に通い、生産者のプロフィルや苦労話を交えながら沿岸の名産品を勧める。「震災にめげず、奮闘する作り手の思いを届けたい」と奔走する。
 盛岡市中心部の県産業会館「サンビル」。一角にある販売ブースで、佐々木さんが行き交う買い物客に笑顔で語り掛ける。
 「九戸のじいちゃんたちが全て手作業、無農薬で丁寧に育てました」「放射性物質は一度も検出されていません。安心してね」

 現在の一押しは九戸村の名産「甘茶」のティーバッグ。紅茶のような口当たりが特長で、漢方薬の原料にもなる。花粉症やほこりのアレルギー、歯周病などに効能があるいう。
 生産量日本一を誇る九戸の甘茶は、原発事故の風評被害に直撃された。得意先だった製薬会社が2011年夏に買い付けを停止。生産量の6割に当たる約2.5トンの販売先を失った。
 甘茶の販路開拓を目指すいわて定住・交流促進連絡協議会九戸事務所の渡辺博支援員(49)は「風評被害の現状を熱心に説明しながら売ってくれる。盛岡での評判は上々でリピーターも増えてきた」と喜ぶ。
 佐々木さんは山田町出身で、町の病院で事務職を務めた。定年になった翌年、震災に遭った。
 津波で流された自宅は「のんべえ長屋」の愛称で親しまれた住民の交流場所にあった。毎晩、漁師や会社員ら多くの人が酒や食べ物を持ち寄り、身の上話や町の将来を語り合った。
 そんな日常を津波は奪った。懇意だった漁師たちはほとんどが被災し、立ちゆかなくなった。

 「仲間のために何かしたい」と考えた末、13年秋に盛岡市で山田町の水産加工品の売り込みを始めた。仮設で一緒に暮らす妻の由美子さん(58)も応援した。
 物を売る仕事は初めて。声を掛けた買い物客に何度も迷惑そうな顔をされた。そんな時、脳裏に浮かんだのは、夜明けの海に繰り出す地元の漁師の背中。「不思議と力が湧きます」
 店頭に加え、注文に応じて事業者に発注する取り次ぎ販売も手掛ける。扱う商品は海産物や加工食品など約100品目に上る。
 「全国から数え切れない支援や励ましの声をもらった。被災地の仲間と一緒に汗水流して働き、少しでも復興に貢献したい」
 古里を元気に。熱い思いを胸に、自慢の品を運び続ける。(横山勲)


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2016年01月31日日曜日

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